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「事情は解った、行こう」 事情を説明したマリナに、康一はあっさりと応じてコートを羽織った。 きょとんとして康一を見返してから、マリナは……自分でも驚くほど素直に、礼を述べることができた。 「あ、ありがとう」 康一は何のこともない、といった調子で肩をすくめる。 「仕事の内だ、気にするな」 魔術師は神秘の公開を嫌う。無為に一般人が巻き込まれることは、避けるのがセオリーだ。 だがだからと言って、積極に一般人を救う義理はないし、魔術師はそうした……そう、心の贅肉とでも言うべき非合理性を総じて嫌う。 康一は自分の選択が、とても魔術師的でないことを自覚した。 (ナーバスなんだよな……意識してんだ) それは誰よりも『魔術師らしい』彼の父親への反発かもしれないし、あるいは先刻のランサーとのやり取りが原因だったのかもしれない。 だが、まぁいいだろう。 一戦交えたとはいえ、体力的な消耗は僅少。これといって切った札もない。戦闘は充分に可能だし、逆にセイバーのダメージは今日明日に復活するレベルではないはずだ。 むしろせっかくの同盟者と別行動することの方が、危険性が高い。 「ランサー!」 呼びかけると、背後に霊体と化していたランサーが現れる。 その表情にはどこか気まずさが漂ったが、康一は努めてそれを意識から外した。あんなやり取りでサーヴァントとの連携が崩れるのは、つまらない不利益だ。 「話は聞いたな。ついてこい」 「御意」 「着替えてな」 「は?」 康一の言葉を理解しかねて、問い返したのはマリナだった。 だが康一は取り合わず、ちょっと待てと制してランサーを残してドアを閉じる。 あまり考えたくないことだが、人探しの最中に敵に襲われる可能性も少なくはない。人目につく中で戦う可能性もあるだろう。少しでも誤魔化す方策は用意しておいたほうがいい。 ほどなくして、昼に買った服装に着替えたランサーが部屋から出てきた。 「……お待たせしました」 少し、気恥ずかしそうにしているのは康一の気のせいだろうか? 帰ってきた時は元の鎧姿だったので、今まで男だと思っていたのだろう。マリナは暫し唖然とした様子でランサーを見た。……一方で、赤眼のランサーは「ほう」と声を上げるだけだったが。 ややあって、ようやくマリナが口を開く。 「……ラン子ちゃん?」 「その呼び方は……出来れば、辞退したいのですが」 ランサーは苦い表情で答えた。 ● 湖底市は、所謂バブルの崩壊で開発計画に失敗したベッドタウンの典型例である。 特に郊外南側は顕著で、大型百貨店やパチンコ店、高級ホテルなど、投機性の高い、あるいは撤退の多い事業のなれの果てが林立している。 そのショッピングモールも、またそうした例の一つであった。 「……霊場としては、まぁまぁの規模か」 志摩空涯はモールの入り口に直立不動のまま、その深淵を覗きこんだ。 箱としては、ほぼ完成していたらしい。建築資材が雑然と放置されているが、建物自体は外装まで出来上がっており、物理的にはそれなりに堅牢であろうと思われた。 地脈は通っていないが、なんぞ曰くのつくようなことでもあるのかもしれない。キャスターあたりが手を出せば、相応の城塞として組み上げるだろうと空涯は踏んだ。 足を踏み入れる。 ぴちゃり、という音が足裏から返った。 濡れている。雨は降っていない。水道管が壊れたのでもなければ、人為的なものだ。 罠か。 「――起きよ」 黒の魔術師が命ずると、その魔力(オド)を僅かに吸い上げて身に付けた魔術礼装の一つがその役目を履行し始める。 階段を上るように足を出すと、果たして何もない空間はまさしく階段の如く空涯の身体をほんの20cmほど持ち上げた。 そのまま数歩。モールに足を踏み入れる。 魔術的な罠はまだ見当たらない。恐らく、『組み上げる途中』なのだ。この砦は。 (完成する前に先制をかけられたのは、僥倖か) とはいえ、空涯も完調とは言い難い。 このまま鬼の居ぬ間に砦を破壊しておければこの上ない僥倖なのだが……。 「む――」 飛び退く。 一瞬後に、空涯のいた空間を貫いて一本の矢がモールの床に突き立った。 「……ふむ。やはり、そう易くは済まないか」 怪物の胃袋のように広がる、廃墟の闇の中。107対の眼差しが彼を射抜いた。 [No.341] 2011/05/23(Mon) 22:00:04 |