![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
「……想定、内だ。」 一階の喧騒を耳に入れながら、橋口圭司は、胡桃の実を齧った。 ―― モール一階は地獄の様相を呈していた。 刃が、鈍器が、拳が。 火が、風が、水が。 一人の男を獄卒さながらに襲っていた。 「ふん。」 荒れ狂う地獄をしかし、男は悠然と歩く。 刃には盾を向け、鈍器は薙ぎ払い、拳を迎撃する。 火には水を当て、風は堰き止め、水は弾く。 それはすべて、彼を覆う光球が為した事であった。 襲撃の雨は止まない。 だが男は。志摩空涯は、文字通り露ほどにも構わず歩む。 歩みながら、辺りを注意深く観察する。 ――床の水には粘りがある。何かを溶かしたらしい。 ――彼らの足元を避けるように水が動いている。設置型の術か、制御者がいるか。 ――この数、この能力……サーヴァントは十中八九……。 「砦の主」に思いを馳せつつ、志摩空涯は動かないエスカレーターへと歩を進めた。 ギャアアアン 頭上で響いた衝突音に、空涯は宙を見上げた。 背広姿の大柄な男が、長い棒をこちらに向けている。 「防ぐか。」 「貴様が、砦の主か。」 空涯の頭の上には、光が傘のように開き、大男の攻撃を弾いていた。 「なるほど。」 ――水か。 空涯は一人ごちると、何事もなかったかのように前進する。 まるで、エスカレーターが稼働しているかのように、空涯は滑らかに黒い階段を上っていく。 大男の棒から暫くは刃の如き水が放水されたが、やがてそれも止む。空涯が二階に上る頃には、男は棒を水平に構え、接近戦に備えていた。 ―――――― 間が悪いな。 橋口圭司は正直なところ、天命さえ恨んでいた。 選りにも選って、あの最悪が来なくてもいいじゃないか。 あの時あの踏切に居たはずの、異形の魔術師。 それが、整い切らぬ陣に踏み込んで来た。 神秘(ミステル)を求める魔術師の性質、と言えばそれまでだが、強大な魔術師は『何をしでかすかわからない』。 常人では思いいたらぬ方法を、常人には届き得ぬ行動力でやってのけてしまう。それが、求道する魔術師だ。 そのことを、覚悟はしていた。 覚悟など、身の助けにはならないと、知りつつも。 エスカレーターを挟み、二人の男が対峙する。 「『首魁』は、不在か?」 男の言葉に三方の水の槍で返礼する。 強固な盾、鋭い剣、回転する鋸がそれぞれを防いだ。 「さあな。」 橋口は、背に走る冷たい汗を隠すように強く笑った。 それを見透かしたのか、空涯も口の端を上げる。 目は、笑っていない。 「……。」 今までの抵抗の無力さが、誘いとも思えない。 年齢は近いが、この男は、魔術師としては『若輩』だ。 「では、遠慮なく。」 空涯が上体を軽く前に曲げた。 突撃の構え。 あのバカげた球体で押し込むつもりか!冗談じゃない! 地に撒いた水をかき集め、橋口は水流の防護壁を張る。 だがそれより早く。 空涯の球体から、光る矢が撃ちだされた。 「あ?」 橋口にできるのは、間抜けな声を漏らすことのみ。 鋭い矢じりは未だ薄い水の膜を易々と突き破り―― ギィン。 金属音。 光の矢が軌道を曲げられ天井へ刺さる。 矢を弾いたのは中華剣。 それを手に持つは灰色髪の少女。 エスカレーターからロケットのように現れ、主の命を守った。 一階から揺れるような雄たけびが聞こえる。 「君が、『首魁』か。」 空涯には動じるところもない。 既に真名のわかっているサーヴァントなど、恐れるに足らず。 少女もそれを察したのか、主を顔色を一瞬うかがった後、高らかに名乗った。 「我は天魁星が化身、宋江! 義に依って貴殿を討つ者である!」 一階から、雄たけびと共に義侠の濁流がなだれ込んだ。 [No.344] 2011/05/23(Mon) 22:02:50 |