![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
空を引き裂く魔力の奔流が、僅かな痕跡を残して地平の彼方へ消えさる。 同時に風車の丘は水滴を垂らした水彩のように、滲んで崩れた。 覚めない夢は無い。虚構はいつか終わる。 (王――人々の編み上げたアーサー王よ。あなたは、偽りだった) ランサーの心に去来したのは、透明な悲しみだった。 あのアーサー王は、己の頂いた王ではない。だが虚構だからこそ、正しく彼女の理想だった。 ウェールズの森で焦がれた。キャメロットで傅いた。……そしてカムランの丘で果てた。 あれは偽りの王だった。だが、彼女の主君は――むしろ、あの偽りを纏っていたのではないか。偽りに塗り固めたのは、他ならぬ臣下たる自分たちだったのではないか。 (これは、私の罪だ) ひらひらと舞い落ちる、カード。剣掲げた騎士の描かれたそれを、しかと握った。 「御安らぎください、王の偽りよ」 一人の乙女が、国を負って戦った。 全てを天に返上した。友を追い出し、妻を責め、子を手にかけた。 その果てに剣の丘に独り倒れた。 もう、いいだろう。全ては歴史と虚構の彼方だ。もう、いいだろう。この乙女に安らぎを与えても。 (もう指の一本――纏う偽りさえも、戦わせはすまい) 妖精郷(アヴァロン)は遠く、ここは血で血を洗う魔術師の戦場だ。 だが、この乙女が安らぐ場所ぐらいは。この身、この剣で用意して見せよう――。 それが、彼女の奉公だった。 アーサー王への、ではない。 彼女を騎士の華と認めてくれた、一人の乙女――アルトリアに返す、大恩だった。 ● 風車の丘は崩れて落ち、残滓一つ残さず消えた。 さもあらん。あれは世界のどこにも在り得ぬ風景。彼の狂気という名の虚構。 本が閉じられれば、物語は終わるのが定め。――だというのに、その主たる赤眼の騎乗兵は確かにここに存在する。 (――虚構の王よ。私は、君と同じだ) この身は虚構で出来ている。 人の想いと夢。あるいは自嘲と逃避。それらが形作った、虚実の騎士。騎士道物語の権化。 人々が、嘘を重ねて己を現界させたならば。自分もまた、この嘘を鍛えて真実を目指そう。 (眠れ、騎士の王。夢は私の領分だ。お前が託されたモノは、この槍が確かに継いでいる――) 足元に広がる不毛の荒野が、元の無機質なアスファルトに戻っていく。 物語は、閉じた。 「ライダー!」 マリナが駆け寄ってくる。傍らの康一の腕は――無論、治療できようはずもないが、どうやら生命の危険は無いのだろう。足取りはしっかりしている。 「ぼろぼろじゃない、大丈夫なの!?」 「あぁ――まぁ、手酷くやられたが、差し当たっては問題ないよ」 聖杯は不要ぬ。託す願いなどありはしない。 だが、負けはすまいとライダーは思う。 この少女が彼の主。なれば、それに従い道行を守るのが彼の存在根幹を為す秩序――そう、『騎士道』だ。 「……どうしたの、ライダー?」 「ん?」 「貴方――笑ってるわよ?」 言われて気づき、顔に触れる。 笑んでいた。微笑んでいた。 あぁ――全く、不謹慎な。まだ苦境を抜けきったとも限らぬのに。聖杯戦争は、まだまだ続くのに。 「いや……自分の幸運に感謝していたところさ」 「――まぁ、そうね。正直、生き残れたのが不思議なぐらいの強敵だったわ」 あぁ、違う。違うのだ、主人よ。過酷な現実の中、誇りと善良さを失わぬ少女よ。 この身の最大の幸運は、七貴マリナに召喚された、そのこと自体だ。 確実な勝利を投げ出してでも友情を貫き、しかしてその果ての望みを捨てぬ不屈――。人が醜さを曝け出す戦いの場で、彼女はまさしく騎士が護るに値する娘だ。それは――彼にとって、何よりの幸運だった。 「いきましょう、ライダー。舞子を病院に連れて行かないと」 「あぁ――心得た」 物語は続く。 願わくば、その果てに彼女の幸福があることを。 ● 雉鳴舞子は夢を視る。 酷く現実離れしていて、物騒な悪夢だ。 戦い。この世の根底を覆すような、常識外の法則が支配する戦いの中に、彼女の友はいた。 悪夢だ、と思う。 だがその中で、彼女の友――そう、親友だ。彼女はそう自称している――は、しかしいつか見た誇らしく、強く、そして孤独な彼女のままで……そのことだけが、この埒も明かない悪夢に現実の臭いを付加していた。 雉鳴舞子は夢を視ている。 救急車に乗せられる舞子に、「大丈夫よ」と言って頬を撫ぜた、親友。 自分の現実は、それだけでいい。 雉鳴舞子は、その夜に夢であれと願った――。 [No.351] 2011/05/23(Mon) 22:07:16 |