![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
パトリツィアは、戦うことが好きだった……わけではない。 彼女の源流は、愛に飢えた少女時代だろうと他人事のように推察している。 彼女の家は代々軍人を輩出してきた家系で、女子が育つには『向かない』環境だった。家人は皆厳格で、遊びがなく愛情表現が下手だった。……下手だっただけで、愛してはくれていたのだ。それは当時も察していたし、今もそう信じている。 ただ、愛に飢えてはいた。 愛『される』ことと、愛『する』ことにに飢えていた。 凪いだ風に抵抗を感じないように、エフェメラ家の愛は誰も癒しはしなかった。 だからだろう。あの家の人々は、従うことと打倒することしか知らない。 戦う時だけ、両親は彼女を自然に褒めることが出来た。彼女もまた、戦うことだけは誰よりも上手く出来た。 だから、結局のところ。 壊れていたのは彼女ではなく。彼女の両親でも、家族でもなく。 ……壊れていたのは、エフェメラの家そのものなのだろう。 ● ……『お楽しみ』の時間は、さほど無い。 勇治と斬り結びながら、パトリツィアは冷静にタイムリミットを計算していた。 彼女らが打ち合う場所は市庁舎の西側、やや南寄り。 歓楽街の外れで、普段から昼間の人通りは少ないが、現在は『とある理由』で人影は絶無に近い。 のみならず、人払いは行われている。魔術的なもののみならず、社会的にも。 (それでも、『別口』の介入はあるだろうな――……) ある意味で一般人のそれよりとびきり厄介な横槍が入る可能性が残されている。 残された時間は、ざっと数分か。 「まぁ、いい――楽しむさ!」 パトリツィアの剣が打ち合った刃の上を走り、鍔を叩いたのを合図にしたようにその剣先から焔を吐く。 「う――ッ!?」 虚を突かれて勇治は身を捻った。至近距離で炸裂した火炎を回避しきってみせたその体術は驚嘆に値する。 (――が、隙だらけだ!) 打ちおろすような追撃。 パトリツィアは必殺を期したが、退魔は懐から抜き放った短刀の柄で受け止めて見せた。 「チッ――弔砲……!」 「させるかッ!」 魔術を発動させんとするパトリツィアの足を刈り取るように、アスファルトの上を反転した勇治の刀が襲いかかる。 すんでのところで天狗飛び。バク転一つで5mほどの間合いを稼ぎ、降り立った。 「――は。使うじゃあないか」 「……」 勇治は油断なく刀を順手、短刀を逆手に構えて腰を落とす。 ――……やりにくい。 単純な剣術の腕なら、勇治が一歩先んじるだろう。魔術を含めても、幾らか分があると見た。 ただ、幾多の道を外れた魔術師を狩ってきた彼の戦歴からしてもパトリツィアの戦闘法は特異だった。 剣術と魔術が、同一線上に運用される。そもそも戦闘の手段として魔術を構築しているフシがある。本来学徒であり、その探求の果てに道を踏み外す魔術師にはいないタイプ。 魔術使い。そう、確か奴らはこれをそう呼ぶのだったか。 「どうした?……来ないならこちらから行くぞ、サムライ」 鋭い笑みを残影に残し、パトリツィアの刃が路地を駆け抜けた。 ● 万事に長けた英霊というのは、存在しない。 魔術という専門技術を排除したとしても、全ての間合いに対応した英霊はそういない。そう、ライダーは思っていたし、生前数多の騎士道物語を乱読した彼の考えは実のところそう間違ってはいない。 狙撃という絶対有為と引き換えに高度な熟練を要する攻撃を仕掛けてきた以上、近距離での打ち合いは幾らか落ちるに違いない。アーチャーである以上、最低でもクラス特性の点で戦力は漸減するはず。 それがライダーの考えであったのだが。 「――見立てが甘かったな」 一時、間合いを取ってライダーが独りごちる。 彼が繰り出す馬上槍を、アーチャーは全て手にした棍棒で打ち払っていた。 まるでセオリーのない出鱈目な手管であるが、体勢の整っていない無造作な一撃でさえ馬上槍ごとライダーの身体を吹き飛ばしかねないほどの『重さ』がある。 ライダーは、己が培ってきた常識を躊躇いなく投げ捨てた。 人間であった頃には考えもしなかったことだが、英霊の中にはさしたる鍛錬も理法もなしに人域を突破する手合いが稀に居る。 「神代の英雄――察するに、ギリシャに由来する英霊か」 「うん?――……まぁ、お前たちからすればそうなるかな」 アーチャーは韜晦するでもなく、肯定した。 マスターが釘を刺していなければ真名さえあっさり喋ってしまいそうなその口ぶりに、背筋が寒くなる。 奴には、そんな小手先を物ともしない自信と、それを裏打ちする実力がある。 「俺の弱点は解ったか、ライダー?」 「いいや――まぁ、万全の条件など望むべくもない。戦いとはそういうものだ」 「『お前たちの』戦いは、そうらしいな。難儀なことだ」 肩を竦めるアーチャーに、ライダーは足元に転がる鉄塊を軽く蹴り、反動で起こすとその背に跨った。 「おお、使うのか。 この時代の馬を間近で見るのは初めてだ」 面白い出し物でも見物するように言うアーチャーに構わず、ライダーは馬の心臓に火を入れた。 見るのは初めて。あぁ、そうだろうさ。自分とて駆るのは初めてなのだから。 相手の情報が読めない以上、自己を可能な限り高みに持っていくしかない。 彼は『ライダー』だ。騎乗物の上にあってこそ本領を発揮する。それが愛用のものでなくても、時代を大きく隔てる物だとしても。 ビルの壁面を駆け昇り、階段を遡るぐらいわけもない。 「ライダー、参る」 1100ccの単車に跨り、馬上槍の騎士が駆ける。 「応さ!」 アーチャーが振り上げた棍棒で迎えた。 ――双閃が、爆ぜる。 軌道こそ直線になったが、人類の英知が捻り出す馬力はライダーの一撃を、アーチャーの怪力に劣らぬ重さに押し上げた。 常識で考えれば突撃後の騎兵には大きな隙が生まれるが、今のライダーにそれは通用しない。双輪が咆哮を上げ、彼の跨る鋼の馬が迅雷の速度で回頭する。 襲いかかった馬上槍を、アーチャーはすんでのところで弾いた。 「ぬゥッ!?」 「――――、まだまだァ!」 急停止から、薙ぎ払い。これまた騎兵の常道を外れた、人外の戦術。 「おォォウッ!?」 さしもの神代の戦士もこれには対応しきれず、鉄塊に胸を強か打ち据えられて非常口に突っ込んだ。 無茶な機動にいななくKATANAを宥めすかし、ライダーは油断なく槍を構えた。 と同時に、この僅かの間に改めて路上に停められていたこの『馬』を調達してくれた康一に感謝する。 最初は生物ですらなくなったこの時代の馬に面食らったものの、慣れてみればこの馬力と取り回しは実に得難い。人類の英知というのも舐めたものではないらしい。 「――……ふははっ」 ぶち抜いたドアを退かして、アーチャーが立ちあがる。 並の英霊でも無傷では済まない会心の一撃であったと自負しているが、傷を負った様子さえ無い。 「やるものだ、騎乗兵。キオスの獅子でもここまで俺を手古摺らせはしなかった」 「――……それが貴様の宝具か、アーチャー」 「おう、然り」 隠すでもなく、アーチャーは己が纏う獣の皮を示して不敵に笑った。 真名を開放した様子は無いが、尋常でない防御力。常時発動型の宝具か。 「この俺の『百獣征す証(キオス・レオ―)』。生半な攻撃では破れんぞ?」 [No.367] 2011/05/24(Tue) 22:07:38 |