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治療を終えた希をバンの後部座席に固定すると、康一は運転席に戻らずにライダーを見た。 「運転は解るか?」 「――まぁ、恐らくな」 暫しの逡巡の後、頷く。 ライダーのサーヴァントは大概、騎乗という乗用物を自在に操る才覚を備えている。自動車自体は初めて乗り回すとしても、先刻まで康一の運転を見ていた彼ならば並以上には操れるはずだった。 「行くのか?」 ライダーの問いに、康一は頷いた。 察しのよすぎる己のサーヴァントとの会話に、置いてけぼりを食らったマリナが慌てて遮る。 「い、行くってどこによ!?」 「『今後の準備に』、だ。 ……夜には工房に戻る。じゃあな」 康一はそれだけ言うと、背を向けて路地に消えていった。彼のサーヴァントは無言でそれに追随する。 「ちょ、ちょっと!」 「マリナ」 引きとめようとしたマリナを、ライダーが制止した。 「宝具を、この短い間に三回だ」 意図的に足らせていない言葉であったが、マリナはそれだけでどうにか察した。 ランサーはこの一連の戦闘だけで宝具を三回も使用している。ただでさえ不調で負担の重い宝具を、三回。 彼女の魔力はもう空っぽに違いない。エーテルで身体を構成するサーヴァントにとって、行きすぎたそれは致命的な問題だ。億尾も出さなかったが、内心相当キツかったのではないか。 「だったら!余計放って置くわけにはいかないでしょ!?」 血管獣の突撃を防いだ一回を度外視しても、残りの二回はライダーと希のために行使したのだ。彼にとって、本来助ける義理のない相手に。 大きな借りだ。ここで単独で動かせるような危険は冒させたくない。 だが、ライダーは首を振った。 「ダメだ。彼がそれを辞したんだ。我々はそれほど彼に信用されていないし、そうあるべきなのは違いない」 彼とてランサーに恩義は感じている。セイバーとの緒戦で受けた借りはアーサー王との戦いで返したつもりだったが、またしても大きな借りを作ってしまった。 弱った彼らを襲うような騎士道にもとる行為は埒の外としても、彼らが回復するまで全霊を以って護るのが筋だとは思う。 しかし、それを康一は良しとしなかった。 さもあらん。同盟を結んでいても、最終的には……全てが首尾よく運び、聖杯の前に二組で立ったとしても……彼らとは敵対する宿命だ。 必要以上に馴れ合うべきではない。……そして恐らくは、康一は『いつマリナたちが自分を殺しに来ても対処できる』、その距離を己に課しているのだろうとライダーは察した。 「なによ、それ……!」 マリナは憤慨した。 ライダーの言う理屈は解る。康一の判断は賢明だ。だが、彼が今まで『賢明な判断』に徹してきたわけではない。 顔も知らない舞子の捜索に協力してくれた。サーヴァントが脱落しようという時に、危険を冒して助けてくれた。 さんざいい顔をしておいて、『信用はしていない』? 「勝手な奴……!」 マリナは憤慨した。 康一の筋の通らない身勝手さに。そんな奴に借りを作る己の不甲斐なさに。 「……乗れ、マリナ。病院へ向かわなくてはならない」 ライダーは大きく息を吐くと、主の背を押して助手席に促した。 ● マリナらから姿の見えなくなったところで、ランサーがその場にくず折れた。 「ランサー!」 康一が抱き起こすと、その身体は熱病に冒されたように熱い。サーヴァントの身体が熱病を患うはずもないが、魔力の過度の消耗が似た状態を引き起こしているのは想像に難くなかった。 不調であるのは悟っていたが、まさかこんな状態を今まで隠し通していたとは。 「申し訳……ありません、主……」 「待ってろ、そこの車を頂いて行く」 ランサーを助け起こし、路上に停められた乗用車に向かう。 身を預ける主に、従僕は力なく笑った。 「きっと――今頃、マリナは怒っているでしょうね」 「あぁ……そうだな」 ランサーの状態を考えれば、彼らと共に行動するのが安全ではあった。マリナもそう考えるし、彼女はたぶんその選択に疑問さえ差し挟まない。 だが、それをしてはならない。彼女が望んだとしても、自分の側は最後に彼女の敵に成り得ることを忘れてはならない。 それが、願いのない自分が願いのある彼女と相対する上で、通すべき筋だ。いや、あのバーサーカーのマスター風に言うならば、『拘り』の一端。 「悪いな、ランサー。苦労をかける」 ドアのロックを外しにかかりながら、康一は沈痛な表情で謝罪した。 康一とは違い、ランサーは聖杯を求めている。 その先にかける願いがなくとも、聖杯を手に入れることに命さえかけるだけの理由がある。 その彼女に自分の『拘り』に付き合わせるのは、正直なところ心苦しかった。 ランサーは、ライダーと希を捨て置くべきだった。それでマリナは聖杯戦争から脱落し、勇治らの戦力は大幅に減ずる。……それが賢明な選択だ。 だが、彼女は鷹揚に笑ってそれを否定した。 「言ったはずです。我が願いは名誉の回復。なれば――その過程においても、気高くあらねばなりません」 だから、気にするなと彼女は言った。 空言ではあり得なかった。現に彼女は命の危険と、命に替えても叶えたい願いをその誇りの犠牲にしている。 「あなたは、この私が誇るべき判断をしました。 どうか、気に病まれることなきように――」 だが、康一は思う。その誇りは、きっと報われはしない。 康一はその気高さに足る主ではないし、彼女の主はもう、この世には存在しないのだ。 「――……ランサー」 康一の言葉は、それ以上先を結ぶことがなかった。ただ、決意はした。 「ランサー」 「……はい」 「お前の宝具の不調、直せるかもしれん」 決着をつけなければならない。自分と彼女の矛盾に。恐らくは彼女の力を奪い取っている、その矛盾に。相対しなければならない。 驚いた表情で言葉を失うランサーに、康一はまっすぐな視線を向けた。 「お前の真名を、取り戻す」 [No.377] 2011/05/24(Tue) 22:19:33 |