![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
少女が地獄を認識できなくなったのは、単純に状況に慣れた――絶望したというのも一因であったが、直接的な原因は薬物の投与にあった。 生命活動を維持する為の、ひいては彼女を仮死状態に追い込む為の薬品は、その副作用として彼女の人格、性格を侵蝕し、やがて塗りつぶしていった。 何も感じないのだ。 喜びも、哀しみも、怒りも、絶望すら、少女はもう、感じる事が出来ないのだ。 ただ漠然と、感情が失われていく事が危険である事は理解していたが、その危険である事を恐れるという心の動きさえ彼女には起きなかった。 人形になっていった、少しずつ、少しずつ、感情を失う度に少女は人形になっていった。 その全てが失われる前に――――何とか、この状況を何とかできないか、少女は半死半生のままで、それだけを考えていた。 皮肉な事に、感情を失っていた事が彼女から絶望を遠ざけ、助けが来る、という夢さえも遠ざけていた。 動かせるのは体内の生命維持に必要な贓物と、身体を循環する血液だけだった。 ――――あとは体内に残留する薬物の成分、生命活動を維持する為の成分、仮死状態を維持する為の成分、それらを解析し、体内で調合する事が出来たのは、単にそれが彼女の非凡な才能が顕著に現れた例だった。 治癒に特化した魔術師の一族は、彼女で一つの達成を得たのだ。 手を動かさず、魔力を通すだけで自分の身体の中身を弄り回せるという、“おぞましい事”が出来る程度の達成を得たのだ。 こうして“剣”は作られた。 後はあの吸血鬼が血を啜りに来るのを待つばかり――――自らの行動の成果を試す時が来たというのに、少女の心は少しの高揚も恐れもなかった。 ただ機械的な――生物として在る、という目的の為だけど、感情を伴わない意思だけが彼女に残されていた。 ● やがて、薄暗い彼女の寝所に、一人の男がやって来た。 吸血鬼――――では無い、それは足音で少女にも判別できた。 誰だろう?、と思うが、興味を持てる程の好奇心が感情を失った少女にはどうしても沸いてこない。 「やぁ、これは酷い」 酷く軽薄な声が聞こえた。 驚いているようで、その実何も驚いていない、そんな声だ。 「君を助けに来たんだ、嘘だけど、信じてくれ」 軽薄な声が言葉遊びのような言葉を続ける、助けに来た――――?、嘘なのか?、信じれば良いのか?、少女は感情なく思考する。 「どうやら君は自分だけで奴に一泡吹かせる手段を作ったらしいねぇ、凄い、本当に凄いよ……。 そんな君に敬意を表して、一つ良い事を教えよう、次に奴が血を採りに来る時、君は“その力を使ってはいけない”よ」 ――――何を、言っているのだろう。 少女は言葉の意味を理解できない、この男は、何もせずこのまま人形でいろというのか。 「まぁでも、使っても良いんだ、俺は」 今度は、使っても良いと言う、どっちなのだ、と少女は思う。 殆ど人形と化した少女に、感情を伴う思考は出来ない。 「それじゃあ検討を祈るよ、グッドラック!」 それだけ言うと、男は寝所を出て行った。 去り際に彼が口笛で吹いていた「G線上のアリア」が少女にはやけに印象に残っていた。 [No.405] 2011/06/02(Thu) 20:21:17 |