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「……ええ、主。 私は『あなたのランサー』です」 「何でお前が言うんだよ……」 柔和な笑みと信頼に満ちた瞳、穏かに紡がれたランサーの言葉を聞き、マリナは無表情で同じ言葉を繰り返した。 特に『あなたの』という部分にアクセントを置いた発言に、康一はささやかな悪意を感じる。 「……えっと、何かおかしかったですか、マリナ?」 「あ、いや、変な訳じゃないんだけど……」 マリナが“からかっている”のを解らず、律儀にランサーが問い返すものだから返ってマリナの方が恥ずかしい気持ちになってしまう。 霊体化したままのライダーは姿を現さないが、なんとなく含み笑いを浮かべる青年騎士の姿がマリナの頭に浮かんだ。 ○ 逆に――ライダーは困惑していた。 昨夜、七貴邸に戻った後に、彼はついにマリナに尋ねたのだ。 『君は、聖杯をどうするのだ?』と。 マリナは考えるような素振りも見せず『吸血鬼化の治療』と答えた。 その答えはライダーにとって満足のいくモノの筈であったが、今となっては疑問があった。 教会での月との会話、そしてキャスター戦で見せた表情。 自らのマスターが何かを抱えている事を察する程度には、ライダーは察しの良い男だった。 どう尋ねようか迷いながら、あるいは尋ねるべきでは無いのかと思案するライダーを見て、先に語りだしたのはマリナの方からであった。 「私には――――感情が無いのよ」 その言葉から始まった説明は、ひどい冗談にしか思えなかった。 これほど感情的で表情豊かなマリナに、感情が無い等とはとても思えなかったからだ。 だが、説明を聞けば聞くほど――――。 「吸血鬼化の治療は母親の件に私なりにけじめを付けたいだけ、 あの村の死んだ人達に、その流れから来る結果という意味を与えたいのよ」 聞けば聞くほど、あの時の表情と、何故彼女が自分を召還したのかをライダーは理解してしまう。 七貴マリナは、偽物で出来ている。 欠けた感情(なかみ)を継ぎ接ぎにした、偽者の心。 彼女は――――フランケンシュタインの怪物だったのだ。 身体ではなく、心を継ぎ接ぎにした怪物だったのだ。 それがライダーには酷く理不尽に思えた、どうして、この“感情豊かなマリナ”が真のマリナでは無いのかと。 偽りを纏う者でなければ、偽りに満ちた英霊である己は召還に適合しない、つまりやはり真のマリンは“感情の無いマリナ”なのだ。 その事実がライダーにはどうしようもなく悲しく、また、どう言葉を掛けるべきか解らないでいた。 なぜなら、彼は後悔して死んだのだから。 偽りを纏って生きた生涯を、『間違いであった』と絶望して、死んだのだから――。 ● 康一は言葉通り、七貴邸に着いてから泥のように眠りに入った。 康一は勿論だが、傷が塞がったばかりのマリナも身動きが取れる状態では無い、自然とその日は夜まで休む事になった。 「寝る前に、これを飲んでおきなさい」 眠る前に康一はマリナからゼリー状の飲料に似たパックに入った赤黒い液体を渡された、見れば早速同じ形のモノをマリナ自身も口にしている。 「これは?」 「私の血」 反射的に受取った手を遠ざけると、マリナがイラッとした顔をする。 康一はげんなりした目線だけで説明を求めると。 「厳密に言えば血を媒介にして保存してある私の予備魔力よ、 本当なら直接点滴した方が早いのだけど、飲んでも効果はある筈よ」 「でもよー……」 康一は手にした血液のパックをぷらぷらと揺する、これを飲めというのか、吸血鬼じゃあるまいし、あの血管ではあるまいし。 「血液を媒介にしてるだけで全部血液って訳じゃないんだから我慢しなさい!、 魔力が回復しない事にはアンタもどうしようも無いでしょ?」 「まぁ――な」 良薬口に苦しって言うでしょ?、というマリナの言葉には同意しかねるが、康一は我慢して血液(だけでは無いらしいのだが、ならばこの赤い色はどうにかならなかったのか)パックの封を開け、覚悟を決めて口に含んだのだった。 「…………うっ」 「ぐっと飲む!」 「うぅ……」 点滴した方が、と言っていた事から嫌な予感はしていたが、案の定だ。 マリナの血液入り魔力パックは、ちょっと想像以上に不味かった。 [No.411] 2011/06/02(Thu) 20:26:01 |