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● 幼いころから、一つ所にとどまるのが苦手な男であった。 遠い景色を見に行くのが好きだった。 地球は丸く果てなどないと知る前から、無限の荒野を眺めるために駆けずり回った。 夕焼けに照らされ、終っていく世界がたまらなく好きだった。 切なくて恋しくて、何度でも見たくなる。 だから大学在学中にも平気で世界中を旅行したし、その為ならば非合法な手段でさえ資金集めに使った。 この地球上の、ありとあらゆる『終り』の景色を見るために。 終っていく全ての世界に向けて、「終ってくれるな、きっと素晴らしかった大地よ」と焦がれるために。 橋口凜土。 彼は、遺失に恋し幻想を愛する人であった。 ● 聖杯を分解しよう。 そう言った凜土に、キャスターは異論を挟まなかった。 自分は、終わっている王だ。 語り継がれる伝説になれず、先祖の夢を読み違え、民からも墓を荒らされた、歴史上に愚かな王の一人として残る存在だ。 『架空ではない』ということが、必ずしも存在を強めてくれるわけではない。 寧ろ、史実でない伝説の方が人の心の近くにあることが多い。 書物を読む時、物語を聞かされる時。人は確かに、その世界に『居る』のだから。 翻って、『歴史上の人物』は、死んでいる。過去の、失われた生命体だ。どんなに頑張っても身近に引き寄せることはできない。「その人は死人だ」その集団の意識が、死人を死人たらしめる。 我は死んでいる。 我の王国は終わっている。 我は、永らえてすらいない。 心にあるのは、王たりえなかった無念だけ。 そんな自分が、果たして何を望むと言うのか。 王でありたいと願うなら、王土でも民でもなく、終ってしまった王国に想いを手向けることだけを願うべきではないか。 アーチャーの矢の真名を確かに聞いた。 『ベテルギウス』。 確か星の名前であったか。640光年彼方の死にゆく星の名。 ベテルギウスは光神オシリスの星でもある。 「なるほど、我が射抜かれたのも道理。」 確かにあれを矢として放つ射手ならば、天から落ちることを何とも思いはするまい。 凜土は問うた。 願う事もなく、 存在意義さえとうの昔に消えた王は、何故自分に従うのか。 「我も、夕焼けが好きなのだ。」 勝利でも敗北でもなく、神秘が朽ちる様を見たいと。彼は言った。 ● 「圭司を、やったそうだね。」 声は、上から聞こえた。 [No.435] 2011/06/02(Thu) 20:43:19 |