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どう生きるべきか、など瑣末なのだ。 ただ、生き延びるべきなのだ。 それが出来ないというなら、お前たちは死ぬべきだ。 ● 丘が、赤く染まった。 そろそろ時間的には夕刻だが、まだ日は高い。まして、染め上げる赤は夕焼けの朱にしてはあまりに紅く、凶い。 「……そうか」 紅い波紋が、走った。水など何処にもない。何も無い空間……『空』を水面に見立てたように、波立っていく。 尋常でない事態に晒されながら、康一は狼狽しなかった。それどころか、全てに得心がいった。 「これが、『血管』の正体か」 波紋が描いた楕円がほどけるように『線』に分解され、複雑に絡み合っていく。それがヒトカタを為した段になれば、もはやそれは紅い線ではないと気づく。 『血管』。この聖杯戦争に噛み続けたイレギュラー。 いや……。 「これはサーヴァント……? いや、それとも……」 絡みついた血管がさらに縒り合わさり、不格好な針金細工が朱塗りの木偶に、木偶が完全な人型を模し始めたところで、ランサーがその正体を不完全ながらも解する。 これはサーヴァントだ。サーヴァントの座を以って顕現した。 だが、英霊などではあり得ない。もっと原始的で、破壊的で……彼女らより根源的な存在。 「抑止力……」 言葉に出してみて、康一はその可能性に確信を持った。 抑止力。それは抑止すべき対象……人や世界の『滅び』を排除できる大きさと、なるたけそれと解らない隠匿性の高い形を以って顕現する。 多くの場合は、人の活動に働きかけ、その行動を後押しする形で顕れるが……。 「何処からどう来るかも解らない抑止に対抗するのは難しい。 故にこのシステムを作り上げた男は、サーヴァントシステムに『抑止力用の座』を用意することで顕現の形をある程度誘導しようとした」 空涯が言葉を紡ぐ間も、血管は徐々にその形をより精緻にしていく。 本来、英霊とは抑止の顕現の一端。相性を言うならば、この上なく良かったに違いない。 「イレギュラー。 システム側は、かのサーヴァントのクラスをそう定義している」 言葉を結ぶと同時に、ついに形を為し終えた『血管』……イレギュラーは、小柄な少女の姿で地に降り立った。 ● 紅を編み上げて作られた身体なのに、その少女は異様に『白』かった。 流れる、両に結わえた銀の長髪。纏う、ドレスのように華美で鎧のように硬質な白の衣服。瞳さえもが、凍りつくようなアイスブルー。 「イレギュラー……?」 呼びかけたわけでもなかったが、康一の漏らした呟きに少女……イレギュラーが腰を落とした。 攻撃姿勢だ。 「主、退がって!」 曲がりなりにも一定の戦闘技術を修めた魔術師の眼で確認できたのは、地面が爆発したことだけだった。 「ぐぅっ……!?」 「ランサー!?」 次の瞬間には、目の前に立ち塞がったランサーが突き出された少女の右拳を剣で受け止めていた。 徒手空拳だ。籠手さえ嵌めていない裸の手。花でも愛でている方が似合いだろうその華奢な腕が、怪力で馴らした円卓の騎士の剣をへし折らんばかりに押し込んでいる。 「なんだ、コイツは……!?」 「さぁな。さしもの私も真名までは知らん」 セイヴァーの他人事のような言葉。視線を巡らせれば、異装のサーヴァントは空涯を抱え、この場から退こうとしている。 「空涯っ!」 「まだ、それは完全ではない。ランサーでもどうとでもなる。 お前が繋がりさえすれば、敵ですら無くなる」 「……っ!」 一瞬の狼狽。それが、師の仇の首を刎ね飛ばす最後のチャンスを奪い去った。 セイヴァーの跳躍と何らかの魔術礼装の複合か、二人の姿は丘の上から掻き消える。 同時に、蜃気楼のように揺らめいていた聖杯が霞みゆき、消えて失せた。 眼前に残されたのは聖杯に触れんとしたサーヴァントとマスターを排除せんと襲い来るイレギュラーと、それを必死に押し留めるランサーのみ。 「くそっ、繋がるったって……!」 志摩康一の身体は「」と繋がっている。だが、『志摩康一である限り』、「」とは繋がり得ない。 根源的被害者は、『生まれ出でなかった』志摩康一なのだ。心の奥底に葬った、彼の死の象徴。 それを表に出す方法など『生まれ、生きている』志摩康一には想像もつかないし、それをすれば彼にとって致命的な結果をもたらす予感だけはあった。 惑う主に、しかしランサーは何も督促しなかった。 「……主。ご安心を」 僅かに振り向いた貌には、確かな戦意。 円卓の騎士は、主の業ではなく己の刃を以って眼前の障害を斬り捨てることを決めていた。 「『これ』は、私が斃します」 [No.440] 2011/06/02(Thu) 20:50:43 |