![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
![]() ![]() |
死と血に塗れた上海の姿はしかし、今でも岩倉具視の見た風景をその姿形だけは留めていた。 建物も道も台車も、汚れはしても壊されてはいない。 自分の不老を保つため文字通り必死で血をかき集めている死徒共も、暴動を起こすには至らない。 そもそも、人が死徒になるには本来数年の時を要する。 血を送りこまれた人が埋葬の後に魂が肉体から解放されるのに数年。食屍鬼(グール)として甦り肉を食らいつづけ、漸く吸血鬼となるのにさらに数年。 翻って、上海を跋扈する死徒は食屍鬼だけでなく人間らしい吸血鬼もいる。 上海の死徒は異常な存在なのだ。 そもそも死徒という異常に対し異常な存在という言い方が性格であるかどうかは怪しいところであるが。 民家の屋根の上、血と肉に赤く染まりあがった上海に異質に白く輝く者が上空を見上げていた。 白い髪、白い服、白い肌、白いヒール。背の低い、幼い少女。 その薄氷色の瞳に、確かに空を飛ぶ要塞の姿が映っていた。 「グラーフ・ツェッペリン……!!」 うふふふふふふ、ひひひひひひ、いひひひひひひひ…… 喜びに全身を震わせる。 あれは、存在しないはずのものだ。 シカゴ万博で見たLZ127によく似ているが、それはまだ開催されていない。パティ・ガントレットにとって未知ではないが、未来のものだ。 存在しないはずのものが存在するのなら、それは神秘によるものだろう。 時を超える術は知り得る中ではただ一つ。全時空に通ずる英霊の座にある者の召喚。 即ちあれは聖杯戦争によって呼び出されたサーヴァントの仕業。 そうか。やる気ですか。 聖杯を奪い合い殺し合うのではなく、この聖杯足るわたくしを討ち滅ぼすという戦争を。 聖杯との戦争を。 「では、こちらも冗談の領域で応対しましょう。」 つぷり、と血濡れた道路に洋靴の底が触れた。 女は滑るように歩く。その先は上海工部局宰牲場。 屠殺されることなく腐った牛が幾頭も倒れていた。 パティはそれに一つずつ手を触れ、惨めな死骸に豊かな生を吹き込む。 骨は細く軽くなる。 空気を溜めこむ気嚢が発生する。 視神経と脳髄が微細な色彩を見分けられるように発達する。 血濡れた赤い牛は立つ。巨大な翼を携えて。 聖杯の一滴、すなわち悪意の雫を打たれて。 「行け。」 そう命ずると牛たちは海岸線めがけて一直線に走り、そしてカモメのように飛んだ。上空の神秘めがけ、どこまでも高くへと。 まずは、お手並み拝見と行こう。愛しき人間よ。 [No.635] 2015/11/29(Sun) 00:26:40 |