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No.530へ返信

all ルリルラ、新生200年前スレ - ジョニー - 2013/06/20(Thu) 23:22:53 [No.529]
迷子船 - ジョニー - 2013/06/21(Fri) 20:12:01 [No.530]
Bring to the boil 1 - アズミ - 2013/06/21(Fri) 21:58:32 [No.531]
迷子船2 - ジョニー - 2013/06/22(Sat) 01:22:45 [No.532]
Bring to the boil 2 - アズミ - 2013/06/22(Sat) 09:25:04 [No.533]
迷子船3 - ジョニー - 2013/06/22(Sat) 22:38:34 [No.534]
Bring to the boil 3 - アズミ - 2013/06/23(Sun) 12:27:25 [No.535]
迷子船4 - ジョニー - 2013/06/23(Sun) 16:07:19 [No.536]
迷子船5 - ジョニー - 2013/08/31(Sat) 22:38:55 [No.559]


迷子船 (No.529 への返信) - ジョニー

 無色なる工房が保有する最新鋭兵器である陸上艦、奏甲支援船(ランドクロイツァー)に分類されるが武装は無いに等しく絶対奏甲整備能力を重視した移動工房艦とでもいうべき船の艦橋で機奏英雄である風霧真也は頭を抱えていた。
 何故なら艦橋から見える景色は気を失う前と、つい先程意識を取り戻した後でまったく異なるのである。
 真也が意識を失っている間に移動したということはありえない、何故ならつい先日にノクターンの影響がついに現れ幻糸が激減して、この工房船を起動させることすら覚束ないのだから。

「そりゃ今までも理不尽な事は多々あったよ。でも、どうしてこうなった」

 頭を抱えて呻く真也に同意するようにその場にいる3人の女性達も口々に混乱を露わにする。

「本当に参ったわ、うちらは一体どこにおるんやろな?」

「この船が今稼働状態にあるのは間違いありません。つまり幻糸が存在しているということです。意味不明です、私達が気絶している間にハルフェアの端っこにでも移動したとでもいうのですか?」

「この動かんかった船をシュピルドーゼのシュピルディム近郊からわざわざ海越えてハルフェアまで? 乗ってるうちらに気づかれず? 冗談キツイわ」

「でもぉ、この船が稼働してるのも、意識失う前までいた場所から移動してるのは確かだよぉ?」

 ツナギによく似た作業着に身を包んだ女性達、真也と同じく無色なる工房に属する整備士達が推測や憶測を出し合うが答えは出ない。
 今現在この工房船には十数人の人間が乗船しているが、英雄と歌姫は真也とその宿縁であるシルナ・レイオースだけで他の女性達は皆奏甲やこの船の整備士などで占められている。

 どうしてこうなった、と真也は原因はなんだろうと記憶を手繰る。





 事の起こりは工房の責任者である赤銅の姫が消息を絶ったことにある。
 当然、無色なる工房は混乱をきたした。が、アークドライブが使用不能になったとはいえ兵器である奏甲は放置していい存在ではない。
 特に奏甲の武装にはアークドライブの有無に関わらず使用できる銃器がある、流用しようと思えば幾らでも流用可能な危険物の放置は到底認められない。
 そこでまだノクターンの影響が彼らのいたシュピルドーゼに及ぶ前に絶対奏甲を纏め、然るべき場所で管理する必要があった。
 国はノクターンの影響で工房はそれに加えトップ不在という混乱の中にありながらも現場の判断で回収に努めた。
 そうして回収された奏甲の一時保管場所の一つがこの船、正確にはその格納庫と牽引する格納コンテナである。

 真也の最後の愛機であり奏甲回収作業にも使ったブリッツ・リミットも、自発的に回収に提供された奏甲も、戦場跡で放置されていた誰が使っていたかわからない奏甲も含めて格納庫に無造作に詰め込んである。
 本来の搭載機数をオーバーしているが、通常載せるべき補修部品等は載っていないし、然るべき場所に固定するはずの奏甲の多くはただ無理矢理詰め込んで床の上に積み上げられいる有様なので仮にアークドライブが動いても使える機体は少ないだろう。特に戦場跡で放置されていたものは損傷が激しくスクラップに近いものも多い。
 つまりは本当に回収できるだけ回収して、無理矢理詰め込んだだけの状態なのである。最後まで回収作業に使っていた真也のブリッツ・リミットなどハッチと奏甲の山に挟まれてハッチを開かなければ一歩も動けないような有様なのだ。

 ノクターンの影響がついに及びこの船自体の起動もままならなくなり、最後に真也達が工房員が船内のチェックを行い異常がなければ船に入れないように封鎖するだけだったのだが。
 その船内チェック中に地震とは異なる原因不明の振動が起こった。その振動の最中に船内にいた全員が一斉に失うという現象に見舞われた。





「そして起きたら、まるで違う場所……超常現象はもう勘弁して」

 ぶっちゃけ超常現象に巻き込まるなら、真也の知人達の中にもっと相応しい人間が幾らでもいただろうと嘆かずにいられない。

「いや、それより……原因はあの振動だろうなぁ」

「やなぁ、他に心当たりあらんし。なにより皆でバタバタ倒れおるつー普通の揺れならあり得ん事態に見舞われたし」

 真也の独り言に、似非関西弁が特徴の整備士が我が意を得たりと大きく頷く。
 艦橋にいる他の者も思い当たる原因らしきものはそれしかなく、それぞれ肯定を示す。

「で、あの揺れとその後に意識失って倒れたのが原因の怪我人は?」

「幸い重傷者はいません、軽傷は何人か出ましたが現在医務室でシルナ殿に見てもらっています」

 この船で現状唯一の歌姫であるシルナが軽傷者の手当てをしている。歌術を使える歌姫というのもあるが英雄と共に戦場を渡り歩いた歌姫はちょっとした応急手当が出来ることが多いのが理由で、シルナも例に漏れずちょっとした応急処置程度なら出来る。

「船内も異常が出てないか皆で改めてチェックしてるよぉ、今のところ問題はないみたいだねぇ」

「ちょい待ちぃ、問題ないってあの奏甲が山積みになっとる格納庫もか?」

「うん、あれだけ揺れたんだから崩れたりしてもおかしくないからぁ、真っ先に調べたけど土砂崩れどころか荷崩れもしてなかったてぇ」

「嘘やろぉ、一体どうなっとるんや!」

 ほんの少し前の真也のように頭を抱えて絶叫する。
 正直、あの積み方は危険で船が普通に動く程度ならともかく激しい揺れに襲われようものなら大災害になっても不思議はない。それが山積みがズレもしなかったというのは確かに叫びたくなるな異常だ。

「いや、まぁそれは一旦置いておきましょう。それよりも今いる場所を調べないと……この船、動くんですよね?」

「積載過多で速度は出ませんが動くはずです。そうですね、真也殿の言うとおり此処で悩んでいても仕方ありません、行動を起こすべきです」

 真也の言葉に頷くや否や操舵席に歩み寄る。彼女は奏甲ではなく奏甲支援船の整備士だ、操縦は専門ではないとはいえ今この船にいる中ではもっとも適した人材だろう。

「あー、やな。幻糸があるちゅうことは野盗なんか出るかもしれんし。シンヤっちは奏甲のチェック頼むわ」

「構わないけど。でも、あの体勢だとブリッツ・リミットは起動するかどうか確かめるのが精一杯だけど?」

「構わへん構わへん。念の為にすぎんから、なんなら誰かに頼んで問題がないかも調べてもええしな」

 確かに一度幻糸消失で停止した機体なのだから何か異常が出ている可能性も否定はできないので真也はそれに頷いた。

「うん、わかった。後でシルナにもリンクに問題がないかチェックしてもらうよ」

「ほんじゃ、迷子のうちらの帰り道探しに行こうか。出発や!」

「なんでぇ、あなたが仕切るのかなぁ?」


[No.530] 2013/06/21(Fri) 20:12:01

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