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No.532へ返信

all ルリルラ、新生200年前スレ - ジョニー - 2013/06/20(Thu) 23:22:53 [No.529]
迷子船 - ジョニー - 2013/06/21(Fri) 20:12:01 [No.530]
Bring to the boil 1 - アズミ - 2013/06/21(Fri) 21:58:32 [No.531]
迷子船2 - ジョニー - 2013/06/22(Sat) 01:22:45 [No.532]
Bring to the boil 2 - アズミ - 2013/06/22(Sat) 09:25:04 [No.533]
迷子船3 - ジョニー - 2013/06/22(Sat) 22:38:34 [No.534]
Bring to the boil 3 - アズミ - 2013/06/23(Sun) 12:27:25 [No.535]
迷子船4 - ジョニー - 2013/06/23(Sun) 16:07:19 [No.536]
迷子船5 - ジョニー - 2013/08/31(Sat) 22:38:55 [No.559]


迷子船2 (No.531 への返信) - ジョニー

「代わり映えせぇへんなぁ……」

「砂漠ですから」

 関西弁もどきの奏甲整備班の班長エアヴァが艦橋から見える景色にぽつりと呟くと、この船の整備士で暫定操舵手アルテが冷静に返す。
 迷子のランドクロイツァー、工房船シャッフェムッタの現在位置は大まかには特定された。本当に大雑把だが。
 シャッフェムッタの艦橋から見える何処までも続く砂漠、こんな光景はファゴッツ以外にはありえない。
 とはいえ、そのファゴッツは6〜7割が砂漠であり運悪くファゴッツ出身者もファゴッツに詳しい人間も乗船していないので今ファゴッツの何処を走っているのか分からないのが問題だった。
 それに迷子であるという理由以外に、ある理由によって速急に人里を探す必要に迫られている。

「大変だよぉ、もう食料がないよぉ」

 何処か間延びした独特の口調で喋る奏甲整備士のキント、二十歳を超えているはずだが何故か十代前半にしか見えない彼女は見た目とは裏腹に腕利きの整備士である。
 もっとも大変と言いながらもちっとも大変そうに聞こえないのは明らかに彼女の口調と見た目の所為であるが。

「あぁ、やっぱ3日が限度やったかぁ」

「元々積んであった量が量です、仕方ないです」

 そう、今現在この船には食料がない。
 元々チェック後は封鎖する予定だったのだ、本来積んであった食料の大半は降ろされた状態にあった。最後はまだ新造船だったのに封鎖されるこの船の余りに短い舟航期間を惜しんでのお別れ会的なプチ宴会をする予定だったので皆無ではなかったのは救いだが、現在の乗員十数名が数日過ごすには少なすぎた。
 一応一食の量を減らす、昼食の抜くなどして持たせはしたが放浪4日目の朝食で使い切ってしまった。
 幸い水は食料と違い置いておいて無駄金になるということはないし降ろす労力が面倒ということで規定量を積みっぱなしであった事に加え、整備作業などで水を使う関係上通常のランドクロイツァーよりも多く水を積んでいる工房船であった為にまだまだ持つ。
 今いる場所がファゴッツということを考えると水が十分確保されているというのは不幸中の幸いだったといえるかもしれない。いや、ファゴッツは地下水脈によって砂漠国家でありながら水資源は豊富であるがそもそも水の湧いている場所を知らない彼らにとっては無いも同じである。

「こうなったら山積みの奏甲を捨てますか?」

 真也の提案にエアヴァとアルテが難しい顔をする。
 これはこの3日程何度も検討されながらも保留されてきた案だ。
 現在このシャッフェムッタには積載過多の奏甲が積まれている、本来のランドクロイツァーが大型でも4機程度が搭載機数であるのに対して牽引コンテナも合わせて10機以上積み込まれているといえばその無茶具合が分かるであろう。
 当然、本来の船速など期待できるはずもなく非戦闘稼働状態の奏甲といいところどっこいどっこいぐらいの速度といえばどれ程鈍足になっているのかが分かる。
 速度が落ちる分だけ移動距離も短くなり、人里に辿りつける確率は下がってしまう。
 食料不足という致命的な弱点を抱えた状態でそのデメリットは余りに大きいが、元々奏甲回収の為に動いていたのにそれを捨てるのはそもそもの目的に反する。
 おまけに原因は不明だが消滅したはずの幻糸が存在していて奏甲を起動できるのだから危険があるかもしれないから回収した奏甲は正真正銘危険物になっている、スクラップも多いとはいえ直そうと思えば不可能ではない兵器を捨てるのは問題が大きすぎる。

「確かに状態が悪いのを選んで捨てていけば本来の搭載機数まで減らすのは可能やで、ぶっ壊そうと思えばシンヤっちのブリッツを使って炉と操縦席を破壊すれば早々再利用もできへん状態にできる……でもなぁ」

「あれらはこの船に回収された段階で既に工房又は国が最終的に処分を決めるものですから、私達の判断でどうこうするのは厳しいのです」

「しんちゃんのブリッツ1機ぐらいならぁ、まぁ元々工房所属の機体と英雄だからどうとでもなるんだけどねぇ」

「回収した機体の名簿は既に提出済みやからなぁ、後で数と種類が合わんつーことになったら最悪首になるで」

「これから先工房がどうなるか不透明ですが、職を失うのは避けたいです」

「でもぉ、そろそろ如何にかしないとみんな飢えちゃうんだよぉ」

 堂々巡りである。
 結局、この提案は明日の夜までに人里を見つけるか人と接触できなければ実行するという先延ばしを含みながらも受け入れられる事となった。

「それはそうと、うちらの万が一の時の生命線のブリッツの調子はどんなもんや?」

「えぇ、昨日の夜にハッチを開けて軽く外で動かしてみましたけど特に異常はなかったです。装備もルーンソードなら腰の鞘に収めてありますし、試作ドライブも問題なく稼働しました」

「私とシンヤ、ブリッツ・リミットの調律も問題なかったですよ」

 実際、ルーンソード以外の武器もこの船にあるにはあるが格納庫の奥の方に仕舞われていて、山積みになった奏甲が邪魔で取り出すことができないのだ。
 アークソードや銃器類を取り出せて装備出来れば、より安心できるのだが現状そうするには面倒事が多すぎる。
 もっとも真也は英雄大戦の最初期から参戦している英雄で名の知れたエースとはいかないながらも十分ベテランと呼べる程の実力はある、それはかつてカルミィーンロートの搭乗経験があることや今現在ブリッツ・リミットを使用していることからも分かる。
 使用している絶対奏甲もワンオフ機などを除けば最高クラスの機体であるブリッツ・リミットであり、試作型パーフェクトドライブを搭載した一種のカスタム機で見方次第ではワンオフ機と呼べなくも無いものなのだから真也とシルナは決して弱いペアではないのだ。
 だからこそ英雄崩れの野盗相手ならば余程の数や腕利きが出てこない限りは優位に戦えるだろうとの皆の見方である。

「ん、ならえぇわ。お二人にゃいざという時は頼りにさせてもらうで」

 まぁそんなことはまずないだろうがと思いながらエアヴァは言うが、そのいざという時がそう遠くないなどということは神ならぬ身にはわかるはずもなかった。


[No.532] 2013/06/22(Sat) 01:22:45

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