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二十年目の再戦 (No.357 への返信) - 寅山 日時期

分類:名勝負、珍事件

二十年目の再戦

 その昔、詩歌藩国の王都イリューシアには、甲斐玄夜という詩軍の圧倒的な強さで国にその名を轟かせていた若者がいた。彼の父も詩軍の実力者であり多くの大会で優勝した人物だった。そもそも彼らの家系は軍人を多く輩出していた家柄であり、戦術の研究のために詩軍を取り入れたのだと言われている。甲斐玄夜はそれらのすべてを受け継いで育ったのだ。彼の詩軍の指し方は正攻法であるストロングスタイル−−神や竜などの強い駒を強く使い勝つ、というものであり守りを固めた相手陣地をなぎ倒し、奇策奇襲も跳ね返し、数多の勝利を築き上げていた。戦術の基本である強い兵器を正しく運用すれば勝てる、を詩軍で実践したのだ。

 玄夜の体格は軍人の家系に産まれた者に相応しい筋肉質の大柄で、性格も体と同じく豪快で大胆、よく食べよく飲みよく笑う人であった。詩歌の人間には珍しいビッグマウスもあって(一部では不評を呼びながらも)人気者となり、強さと体力と精神力を備えた彼は当時の詩軍最強のプレイヤー候補として人々からよく名前を挙げられたものであった。 

 同じ時代、ある地方の村に越州白夜という若者がいた。体が弱く、子供の頃から病床に臥すことが多かった白夜の面倒を見ていたのは母親と幼馴染だけだった。幼馴染は短い髪の毛で活発な性格で小学校に通い出す頃には体も彼より大きくなっていた、そんな幼馴染が話す外での出来事を白夜はうるさく思っていた。彼には腕や膝に擦り傷を作る子どもたちの大冒険よりも大切なものがあったからだ。嫌な咳を何度かして、体に毛布を掛ける彼の手元には9×9マスの盤上があった、詩軍に使う詩盤だ。幼馴染の「そんなのどこがおもしろいんだよー」という言葉をよそに、白夜にはそれが雪原の広大なフィールドに見えていた。そこで戦う、大軍と大軍、矢と砲弾が飛び交い、竜が空を舞い、神々が光を放ち、王が陣地を構える。白夜は心に浮かべたその景色に興奮しながらアレコレ駒を動かし、家にあった古い詩軍書を読み耽る。幼馴染の冷ややかな視線には気が付かずに。そうやって彼は育ったのだ。

 そんな越州白夜はやがて世に出ることになる。ある詩軍書に彼の投稿が掲載されたのがその始まりだった。彼はそこで、以前同書に掲載されていた詩軍上級者たちの棋譜を分析し、彼ら得意の戦術の弱点を並べ、自分ならこうやって勝つと対抗策まで述べたのだ。白夜の分析力はもちろん、彼の奇襲/奇策を駆使し相手を翻弄するかのような戦術の奇抜さと巧妙さ、そしてその確かな強さは、当時の詩軍関係者たちに驚きと称賛を持って迎えられたーー白夜の父親も軍人であり、しかしある戦場で戦死したという。それは戦力差が大きな戦いであり、最後には突撃ののちに玉砕したという。白夜の決して正面から戦わない戦術にはその影響があった、とのちに言われるようになる。彼が書いた文章の掲載は数度に渡り、この正体不明のプレイヤーのことを誰もが知りたがった。その当時の彼は子供のときと変わらず病弱で、相変わらず自分より体が大きく丈夫な幼馴染に助けられながらも、ニットなどを編む仕事をして、その余暇で詩軍書に投稿を続ける生活を細々としていた。そこに白夜の実力を確かめるために数人の詩軍上級者がやってきた。突然の訪問に、白夜を守るかの如く怒る幼馴染であったが、それを横目に彼はすべての訪問者を詩軍で倒してしまった。この出来事は詩軍書にも掲載された。こうして越州白夜の名と確かな実力は、王都イリューシアの詩軍界に知れ渡ることになる。

 そんな甲斐玄夜と越州白夜は戦うことになる。はじまりは玄夜からだった。詩軍書に載った白夜と上級者の試合の棋譜から彼の弱点を見抜き、対処法を掲載、俺ならばこう戦う、こんな卑怯な戦術を使うやつは強くない、と言い放ったのであった。玄夜からすれば王都の上級者プレイヤーが田舎の無名のプレイヤーに負けたことが気に食わなかったのであろう。それに対し白夜も反論、こんな下品な戦いかたは僕ならば余裕で凌げる、と対抗戦術を書いて送った。詩軍書上で行われたこのやり取りは何回も繰り返され、王都に暮らすスタープレイヤーといまだに正体が掴めないミステリーなプレイヤーの動向に多くの人が注目し、二人の対戦を望む声が高まっていったのであった。

 時同じく、誰もが参加出来るをトーナメント制の詩軍大会が開かれることになっていた。玄夜が参加することを確認した大会の主催者は、交通費や宿泊先などを提供し白夜を招待することにした。白夜もそれに応じる。後日トーナメント表が公表され、勝ち進めば二人は決勝戦で当たることが判った。こうして二人が戦う未来が見えた。多くの者がこれに喜んだ。夢の対戦が成されるかもしれないのだ。

 そして村を出る当日。白夜は幼馴染に一言、大会で優勝すれば賞金でみんなをすこしは楽にさせることが出来ると言って王都に向かった。自分のお腹をさすりながら彼の言葉を聞いていた幼馴染は、彼が去りゆく後ろ姿をずっと覚えていたという。

 そして三日間に渡る詩軍大規模トーナメント大会が開催される。玄夜と白夜は問題なく一回戦を勝つ。攻めの玄夜と奇襲奇策の白夜はそれぞれが得意の戦術を使いその後も順調に駒を進める。聴衆を湧かせ、初日を終えた。彼らは二日目もそのままの勢いで勝ちを積み重ねる。そしてこの日最後の試合、準決勝が行われた。玄夜の相手は彼と並び当時の詩軍界最強候補として名高い老人、織田成青夜。青夜は守りを得意としこの試合でも銃と砲、砦と機を守りに使用した戦術〈地獄の壁〉を展開。攻めの玄夜と長時間の睨み合いを続けるが、制限時間間際で玄夜は砦と砲を攻撃に使用した戦術〈移動要塞フレイムバスター〉を使い〈地獄の壁〉を打ち破る。そして青夜に勝利した。ちなみにこの2つの戦術は定石としてその後、多くのプレイヤーに使用されることになる。

 もう一方の準決勝、白夜と毛利長緑夜との対戦はさらに激戦であった。千里眼の緑夜と言われたその青年の読みはこの試合でも冴え渡り、独自の理論〈コンファメーションシンフォニー〉を使い白夜を追い詰めた。ついに白夜が破れたか、と誰もが思ったところで、彼はそれまで盤面に出ていなかった謀を使用。そこから〈グリムリーパーリスクバランスシステム(GRBS)〉を発動。この死地からの奇策で緑夜を倒し辛勝を拾った。〈GRBS〉は使いこなすのは難しい定石としていまに残っている。

 こうして玄夜と白夜の二人は決勝戦で戦うことになった。それぞれの準決勝を終えたあと、二人は会場で初めて顔を合わしたが、互いに一言も発しなかったという。

 そして大会三日目、決勝戦当日。あの悲劇の日がやって来る。その原因についてある者は過酷なトーナメントが理由だと語り、またある者は王都までの旅が理由だと語る。

 昼前から始まった決勝戦を見ようと多くの人々が会場に詰めかけ、詩盤のまえに陣取る玄夜と白夜を熱気で包んだ。先手の白夜が盤に歌駒を1つおき、後攻の玄夜があとに続く。それを繰り返すうちに人々の目には驚きの色が浮かび上がっていく。玄夜の陣には彼得意の戦術らしく強い駒が良く動けるように配置されていく、しかし白夜は違った。竜も鎌も神も出さずに陣を整えていく。それは誰も見たことのない配置であった。玄夜が自陣に7枚の駒を置き、白夜が8枚目の駒を置きにかかる。盤面の駒数が15以上になり「済み」の宣言が行われるだろう、と誰もが思ったところで白夜はその駒を握りしめたまま盤面に突っ伏すように倒れ込んだ。地面に歌駒が散乱する。ある者は、はじめそれが冗談だとも思ったと言う。その時、白夜の命は尽きていた。鬼才と言われた男の突然の死だった。のち診断でその死の理由は心臓にあったことがわかる。周囲の者の救護の介もなく、白夜の指が再び歌駒を動かすことはなかった。

 大会は終わり、玄夜は不戦勝で優勝となった。彼はこのときの賞金を白夜の遺族に寄付している。この出来事は大きなニュースとなり多くの藩国民が悲しんだ、藩王も悔みの言葉を出した。そして1つの謎が残った。

 この幻の詩合いによって残された謎。白夜の戦術はどういったものであったのか?あの誰もが見たことのない初期配置からどんな詩合が行われたのか?この謎の解明には多くのプレイヤーが挑んだが、皆を納得させる答えを導き出した者はいなかった。

 当時、最強の一角とされていた玄夜はこの大会のあとも強さを保つが、それまでの生彩は欠いてしまった。彼の魂はあの幻の詩合に囚われ続けていたのであった。それから二十年、玄夜は詩軍のプレイヤーであり続け、大きい体はそのままにその言動は落ち着き、渋み掛かった男になっていた。

 再びやって来る、あの詩合で彼の魂が燃え上がるまでは。

白夜が倒れた大会は紆余曲折ありながらも20年後も存続していた。大会の日程は全三日から全四日に伸ばされた。その年の大会でも玄夜はあいかわらず優勝候補であり初日と二日目を難なく勝ち上がっていった。

 そして三日目、準々決勝。この時、二十年前の詩合に囚われていた玄夜の心が解き放たれる。
 
 対戦相手は顔も見たことのない青年であった。ガタイがよく骨太で背も高い、美丈夫と呼んでも良い男だった。無名の新人がトーナメントを勝ち上がる、そういうことは稀にあることだった。新しい戦術を使ったり、無名ゆえに誰からも対策を講じられなかった結果、虚をつくように勝ち上がっていく。しかし決勝に進むにはいま一歩及ばない。その青年もそうなのか。だがしかし、この詩合で玄夜の顔は驚きを浮かべることになる。

 青年が詩盤に駒を並べていくごとに、玄夜の思いは過去を巡る。青年が繰り広げる駒の並びと記憶が交差する。彼の目の前に作り上げられていったのは、二十年前のあの詩合で白夜が作ろうとした陣形そのものであった。目を見張り対戦相手を見つめる玄夜。病弱であった白夜の身体とはまったく共通点のない立派な肉体を持つ青年の顔の中に、玄夜は白夜の面影を見つける。そして直感で彼が白夜の血を引いていることを確信した。

 そうである。その青年こそ病に倒れた鬼才、越州白夜の息子であった。白夜が王都に旅立つ際に村に残したあの幼馴染の腹には、彼の子が宿っていたのであった。それから二十年、母譲りの丈夫な身体と、父譲りの詩軍の才を受け継いで育った彼は、父親の仇を打つようにこの大会にやってきたのだ。名を越州健夜という。

 そして現在、健夜は8枚目の駒を無事に並び終えた。それは彼の父が対玄夜のために開発した戦術の再現だった。こうして、幻の試合が再開した。

 多くの上級者、手練やベテランが参加する大会である。二人のプレイヤーが行おうとしていることに気がつく者はすぐにあらわれ彼らの詩合に刮目した。人々が二人を囲い始める。なかには全てを理解し涙ぐみ者もいた。熱気が熱気を呼び込み大注目のなかでの”再戦”となった。

 父白夜、それを受け継ぎ息子健夜がやろうとしたこと、それは玄夜の得意な戦術、強い駒を強く運用することで勝つこと、を徹底的に翻弄し相手を崩し壊滅させることであった。その戦術の名を〈オーロラマジックイリュージョン〉と呼ぶ。 

 熱戦、激戦、のちの歴史に残る大接戦が玄夜と健夜のあいだに起こった。多くの観衆が固唾を飲んで魅入った死闘は、互いにぼろぼろになりながらも、残っていた兵を使って王までたどり着いた玄夜の勝利に終わった。

 続く準決勝では、すっかり背中の丸くなった青夜と戦った玄夜は嘘のようにあっさりと負けた。

 こうして詩軍の歴史は次に進んだ。玄夜は若い頃の勢いを取り戻し、彼を倒すべく健夜は王都に居を構えた。二人はその後、様々な詩合や大会で幾度も当たることなる。その結果は一進一退、玄夜が勝てば次には健夜が勝つといったことを繰り返した。切磋琢磨し互いに得意の戦術を磨き上げた。そのなかにはいまの定石になっているものもあり、基礎的な技術も含めて彼らの戦いが詩軍というボードゲームをより洗練されたものにした。こうして二人はライバルという存在からやがては遺恨を解き、互いを師とし、年の離れた友人のような関係にもなっていったのであった。誰もが知る、詩軍黄金時代の1つの誕生譚である。

 そして、後年。詩軍を研究した某藩国のプレイヤーたちと、玄夜と健夜が率いる詩歌藩国たちのあいだで、壮絶な団体戦が繰り広げられることになるのだが、それはまた、別のはなし。


[No.364] 2019/02/04(Mon) 14:57:10

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