新大陸でのアレやコレ2 (No.9 への返信) - たきゆき |
ヒョコヒョコと地面から頭を覗かせ、辺りを窺うユラユラの群れに、無造作に近づくと、一瞬で地面へを頭を引っ込められる。 陸珊瑚の台地。 そう通称されるフィールドに足を踏み入れて歩く足取りは荒い。 脳裏を過るのはここに降り立つ前に話を聞いた、第三期隊長の言葉だ。 ゆるりと立ち上る紫煙が柔らかく空を彩るなか、探し人の情報を求めると、大きく一つ瞬かれた。 「あなた、あの子の知り合いなの。じゃあ、もしかして、あなたがあの子の『たからもの』かしら?」 その一言にぐっと言葉に詰まってしまった。 あの人の口癖をおもいだしてしまったから。 愛情過多な人だった。 仲間たちすべてが宝物だと言ってはばからず、大好きよと微笑んで、愛していると繰り返した。 いっそのことみんなの母親になりたいくらいだと言った時は、そんな年齢じゃないだろって皆で呆れた。 くすぐったいような思いを抱えて、伸ばされる手で撫でられるのを受け入れた。 全てが壊れて、バラバラになってしまったあの場所。 そこからこんなにも離れて遠い新大陸で、あの人はまだそんなことを言っているのだろうか。 馬鹿だと思う。 たぶん、あの場にいた誰よりも賢いはずなのに、馬鹿だと思う。 哀れだとも思う。 あの人はきっと変われないのだ。 切り捨てられずに一人ででも抱え続けるのだ。 そんな想いが胸につまって、頷いて肯定することも、ちがうと声を上げて否定することもできなかった。 そんな自分を見て、何を思ったのか、会話を切り替えて告げられたのは、前回顔を見せてから10日程帰っていないという話だった。 見つけたら帰るように言って、と言った竜人族の女性の嘆息に釣られてため息が漏れた。 いくらなんでも狩り場に10日滞在はやりすぎである。 しかも、それが最長ではなさそうなのが恐ろしい。 ましてや、ここは解明されていないことが多数ある新大陸である。危険きわまりない。 自身の安全には無頓着なところがあったが、それは今も変わっていないようだ。 そここそ変わっていてほしかったのだが。 「ったく、どこにいるんだ」 思わず漏れた独り言に返す声はない。 とりあえず思い付くままに足を進め、少し開けた崖沿いのフィールドに近づいた時だった。 けたたましいモンスターの叫びがつんざき、一瞬で意識が狩りの最中の研ぎ澄まされたもになる。 「レイギエナ……?」 陸珊瑚の台地に生息する飛竜種のモンスターの声。それもこの声は。 「戦闘中?」 外敵と戦っている時の威嚇する声だ。 ハンターと戦闘中なのかと、気配を殺しながら近づく。 と。 「って、わわわわっ!!」 慌てふためいた女性の声が上がる。 高く頭上に飛び上がったレイギエナがまっすぐに地面を走る女性を狙っていて、それから回避しようと地面に転がるその人は、探していた人で。 慌てて、閃光弾をスリンガーに叩き込むが、間に合わないと経験で察する。 声を挙げようとした直前に、斜め後ろからカッと視界を焼く閃光が迸った。 運よく岩場に阻まれた零と背を向けるようにして緊急回避をしていた女性には影響がなかったが、レイギエナには効果覿面。 情けない悲鳴とともに、地面に落ちる。 がばりと勢いよく起き上がった女性が体を反転、ハンマーを振りかざして、声を張る。 「ツツイくんナイスタイミング!! いいこ!」 ちらりと視線を向けた先にいたのはツィツィヤック。このフィールドを軽快に駆け抜けるモンスターだ。 それに、まるで友達が手助けしてくれたかのように声をかける姿に脱力する。 ツツイくんってなんだ。ツツイくんって。 地面に転倒したレイギエナにハンマーの一撃を叩き込むまでが一動作。 周囲の確認は最小限で、攻撃チャンスが最優先で動く体は、染み付いた反射だ。 その彼女が、たちあがり始めたレイギエナに距離を取ろうとしながら、ぐるりと目線を滑られる。 その眼差しが、岩場から立ち上がっていた零を捉えた。 「え」 虚をつかれたように立ち尽くし、目を見開いた姿に、息をのむ。 きょとんした様子が、まるで知らない人を見るようで。 (あ…) そういえば、自分の様相はあの頃と大きく違う。顔に刻まれた大きい傷もその一つ。 (俺だってわからない?……でもMHDの団長は気づいて……ってか、良く気づいたな、あのおっさん) 名乗るべきか、焦って、思わずただ見つめ返した零の視線の先で。 「わ、嘘」 ぱぁああっと一気に笑顔になった。 「零だーー!! なんでこんなとこいるの!?」 嬉しくて仕方ないと書いてあるあけっ広げな笑みに、無意識で力がこもっていた肩から力が抜ける。 一瞬の焦りなど、無意味であったと理解する。 (やっぱりこの人は変わらない) 口許に苦笑が浮かぶ。 (俺たちが絡むと優先順位が狂うとこもな!) 「だん……姉さん!! 俺より先に後ろ!!」 声を張り、大剣の柄を握りしめて走る。 シギャアアアとフィールドに迸る咆哮に身を竦めた彼女、滝雪の側に並び、抜刀した武器を構える。 「話は後だ。いいよな」 「もちろん、聞きたいことがいっぱいあるもの! 元気だったのかとか色々!」 「こっちも話すことは一杯だ! ギルドナイトや貴族に騙されんじゃねーとか、狩り場に常駐しすぎとか色々な!」 「え、やだ! お説教の気配を察知ぃ!」 ぎょっとした様子の彼女を軽く笑って、まずはこの目の前の雑魚を黙らせる為に地面を蹴った。
[No.12] 2019/04/19(Fri) 22:25:14 |