人混み抜けて (No.22 への返信) - たきゆき |
「うわっ!」 背中からどんっと勢いよくぶつかられて、たたらを踏んだ。 と、思ったら、斜め前を歩いていた連れとの距離が開いてしまった。 バルバレに大規模なキャラバンが複数合流したのは、昨日夜のこと。 一晩たった今日、街は人でごった返していた。 二人で買い出しにでたはいいが、通りを歩くことすら困難で。 「れ、レオ君! ちょっと待っ、わわっ!」 慌てて声をあげようとするも、押し寄せる人混みに更に引き離されかけて。 「っユキ!」 声に振り返り、状況を悟ったレオニノが素早く手を伸ばし、人混みに呑まれかけた滝雪の腕を掴み、ぐいっと力強く引き寄せる。 「っへ、わっ!」 先ほどから驚いた声しか上げられていない滝雪に構うことなく、片腕で近くに引き寄せて肩を抱き、人混みから守るように身を翻すレオニノの鮮やかなエスコートに連れられ、通りを横切り人混みを抜ける。 テントとテントの間の路地のようになっている場所まで誘導され、ほっと一息つくと、頭の上から苦々しい声。 「今日の買い出しは辞めといた方がいいな。流石に人が多い。それに、こんだけ人が多いと、カモろうとして、値段つり上げるやつもでるやろ」 既に肩を抱いていた手は離れており、未だ人波で溢れんばかりの通りから庇うように背中を向けている。 その背中をぽかんと見上げる。 一般的な青年男性よりも筋肉質で長身の後ろ姿は、なんとも頼もしく。 「ユキ?」 「んーーーー」 きゅっと眉を寄せた滝雪を前に首を傾げる。 「どした?」 「レオくん、頼もしいなぁって」 「何、褒めてくれてんの? 褒めてるので何でそんな顔なん?」 「ちょっと悔しい気もする」 「ふはっ、何でだ」 口を尖らせて褒める滝雪を前に、思わずと言った感じで吹き出す。 「負けず嫌い」 「性分ですぅ」 「知っとる。でもまぁ、こういう時くらいカッコつけさせぇ」 照れの混じった様子で笑いながら手を伸ばし、丸い頭を軽く一撫でする。 「仕方ないわねぇ」 人混みで少しばかり乱れた滝雪の長い髪を、流れるように指を滑らせて整えるレオニノの掌を黙って受け入れながら、くすぐったさに自身も微笑んだ。 「テントの裏から抜けて帰ろっか」 「せやな」 そうして歩き出し、人気のない道を通って自分たちの家でもある設営地に向かう。 うんざりするような人混みを背に、歩き出す二人の口元には微笑みが浮かんでいるのだった。
[No.24] 2019/10/17(Thu) 00:31:29 |