(まだ滝雪が自覚する前の話)
「よし、後は何だったっけ?」 「あー…調理長に頼まれた野菜やろ?メモ俺のポッケやから取って」 両手に抱えた荷物を持ち直しながら、メモを入れた上着のポケット辺りを向ける。 「もう、だから私も持つって言ってるのに」 「荷物持ちで来とんじゃけ、俺が持っとくんは当然やろがぃ」 「頑固者ー」 「ブーメラーン」 「ちょっと、返さないで」 今日は狩りの予定はなく、のんびりついでに食材の買い出しを手伝うことになった俺とユキ。 たまには狩り以外の調達もいいだろうと二つ返事で了承し、ゆっくりと購入リストを埋めていく。
この地じゃユキの方が顔が広い。 馴染みの店主や店員、買い物客と喋りながら買い物をしていくユキの後を荷物持ちとして着いてっとるだけだが、楽しそうな様子を見ていて悪い気は起きん。 一部にはちょっと牽制するんは忘れんと。
最後の目的である八百屋で野菜を吟味していたら、そこのおばちゃんがふいにこう言った。 「二人とも仲が良いわねぇ。ひょっとして付き合ってんのかい?」 「あ?」 「へ!?」 なんや微笑ましい物を見るような目ェしてる思ったら、そういうことか。 どう返すべきか考えとったらユキが先に口を開いた。 「い、いやいや、そういうんじゃないから!Leo君の事は弟みたいって思ってるだけで、そういうのは一切ないから!」
グサッ
Leonino に 5,000 の ダメージ! こうかは ばつぐんだ!
某ゲーム風地文やめろぉ! 余計に傷付く!
くそっ、くそっ! そんな気はしとったわ! ホンマにもぉ…好きなんは俺だけですねー知っとりますがな昔っから。 知っとるけども、本人の口からそうもはっきり言われるとツラい。 おばちゃんも「あらぁ、そうなの?」なんて聞いてくる。 あぁもぉ… 「せやなぁ、俺からしても幼馴染みの姉ちゃんやし、そういう風には思っとらんかなぁ。つかまぁ、保護対象?」 「保護対象!?」 「だってお前よぉ無茶するやんけ」 「して……ないです」 「なんやねんその間ァ」 ほらな、いつも通り。 いつも通りの水掛け論な押し問答をしつつ、おばちゃんにお礼を言ってその場を後にした。
―――――……
「俺のバーロォ…」 グラスを片手に机に突っ伏してる俺。 時間は夜更け。 料理長には先に休むよう言って、俺は一人手酌で自棄酒。 俺自身、酒にはめっぽう強い方やって自負しとるけど、今までの疲れがキたのとペース配分を誤ったみたいでさすがにちょいと酔ったようで。 そんな自棄酒する理由なんて明白で。
もうな、言いながら虚しかったわボケぇ… 何が保護対象やねん…いや、それも間違っとらんけどもさ。 それにただの幼馴染みの姉ちゃん違うやん、大好きな女性やん。 いつからそう思ったんかはもう忘れてもーたけど。 気付いたら好きだった。 そのぐらい自然と、好きになってた。 ただ残念なことに、ユキは俺の事を未だ弟のように思っとる。 ユキにとってはあくまでも守るべき対象。 昔も、今も。
はぁ、と大きくため息を吐き出す。 「ため息つくと幸せ逃げるよー」 と、ユキが食事処に入ってきていて、くすくすと笑いながらこっちに来ているのが目に入った。 噂をすればなんとやら? 声にも出しとらんのやけどなぁ。 「…もう逃げとるけぇ今更や」 「なぁに?Leo君、やけ酒?」 「俺かてヤケになる事もありますー」 「うわぁ、さては酔ってるなー?」 めっずらしー、とか言いながら隣の席に座るユキ。 ……いやいやいや、座らんで!? 今は側に来られたらアカンねんて! なんて、そんな俺の内心の焦りなんて知る訳もなく。 「それで?」 「あ?」 「何があってやけ酒してるの?」 「……」 そう訊いてくるユキの目は、姉の目をしとった。 心配で、力になりたいと思っとる目。 その目は嫌いじゃない。 でも、そんな目ぇされて、余計に言えるわけがあらへん。 お前が原因だなんて、色恋が原因なんて、そんなもん言えるかい。 「…言うちゃらん」 「えー」 「言いませーん」 「言いなさいよー」 「やーだー」 「強情っぱりー」 「ブーメラーン!」 「返すんじゃありません!」 酒の酔いもありケラケラ笑って流せば、仕方ないなというようにつられて笑うユキ。 あぁ、まぁ、いいかな。 そういう風に思う。 まだ、今は、このままでも。 困らせるより、心配させるより、笑っていて欲しいから。
「よし!じゃあお姉さんも飲んじゃうぞー!」 「お前も飲むんかい」 「飲むよー?Leo君の一人酒に付き合ってあげようじゃない」 「人を寂しいヤツみたいに言いなや」 「一人手酌で飲む人に言われたくないでーす」 「お前もたまにやっとるやろがぃ。知ってんねんぞ」 「てへ、バレてた」 「知らいでか」 グラス取ってくるね、と言って調理場の方へ歩いていったのを見て、また一人ため息を吐く。 どうせまた掘り返されるのか…いや、アイツの事やからもう何かを察して聞かんだろう。 そん代わり目一杯飲んで楽しんで寝落ちるんやろう。 いつもの流れだ。 部屋に運ばにゃならんだろう未来に少し辟易しながら、それでも感謝しつつ俺はグラスの酒を煽った。
[No.11] 2019/03/27(Wed) 09:37:51 |