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   新大陸の謎の引きこもり編纂者(?) - たきゆき - 2019/06/03(Mon) 05:09:17 [No.18]
編纂者さんそのに - たきゆき - 2019/06/06(Thu) 10:17:32 [No.19]



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新大陸の謎の引きこもり編纂者(?) (親記事) - たきゆき

書類の山にうずもれている部屋には紙やインクの香りが籠っていて、どこか、古い書物を集めた図書館のような静謐な空気を醸し出していた。
いくつもの紙の塔の向こう、ちらりと見えたのは足元に落ちた毛布。
否、毛布だけではなかった。
それは家主らしき女性を包んでいた。
疲れて眠ったのか、表情は穏やかではない。せめて空気の入れ換えをと思い窓に近づいた時。
「窓開けないで。紙が飛んじゃう」
不意に足元から響いた声にびくりと振り返る。
「いつ起きたのかって?一応G級ハンターよ?私」
むくりと起き上がり大きく伸びをしてから微笑む。
「気配には敏感なの」


[No.18] 2019/06/03(Mon) 05:09:17
編纂者さんそのに (No.18への返信 / 1階層) - たきゆき

 本土から例の編纂者への資料が届いた。
 そうした届け物を届けるのは調査資源管理所の仕事の一つだ。
 G級ハンターだと名乗っていた彼女は相変わらず学者達との接触が少ない。
 というよりも、他者とのと言って良いかもしれない。
 つい先日までは陸珊瑚の台地に常駐していたかと思うと、帰還したアステラでは再びマイルームに引きこもりだ。
 以前、用事で部屋を訪れた時の、なんとも言いがたい不可侵を思わせる空間を思い出しながら、部屋の入り口に立った。
 室内に声を掛けるも、返答はない。
 仕方なく、おずおずと戸に手を掛けようとしたところで、背後から不思議そうな声が掛けられた。
「アンタ誰」
 訝しげな声に、慌てて振り返ると、そこには赤髪のハンターがいた。
 声からして女性なのは間違いないのだが、その顔に走る大きな傷と、全身から漂う精悍な雰囲気に気圧される。
「あ、あのっ、滝雪さんに届け物を」
「届け物? 姉さんに?」
 ぎゅっと眉を寄せて不機嫌そうに呟かれて、びくりと震える。
 何が彼女の不快をかったのかわからない。
「誰から?」
「え、あの、あっ!」
 個人的な物かもしれないと迷うそぶりを見せた瞬間、伸びた手が小包を奪い取っていった。
「その! ギルドナイトからなので、重要書類かもしれないから! かっ、返し」
「なんだ、レオからじゃん」
慌てて食い下がろうとした先で、あっけらかんと誰かの名前があがる。
 途端にとがっていた空気が和らぐ。
「ふーん……ねーーさーーん! 入るよ!」
 知り合いなのかと驚く間に、彼女が大きな声を上げながら、無造作にドアを開く。
 それに対してぎょっと目をむいた。
 思い出す前回の訪問時。
 室内に満たされてた、独特の空気。
 静謐で、神秘的さすら感じる空気を叩き壊すごとき様子に、あの編纂者がどういう反応を示すのかと思い、おそるおそる後ろに続く。
 受け取りの証を貰わねばならないのだから、しかたないと思いつつ、そっと覗き込む。
「姉さん? どこに、あ、もう! また床で寝て」
 呆れた口調で言いながら、大きなため息。
 ずかずかと歩く度に、足下の埃が舞い上がるのが見えた。
「んぅ…? 零?」
 もぞりと動く布は使い込まれた毛布で、そこから、茶色の髪が覗いていた。
「そんなとこで寝るなって俺言ったじゃん。それに空気も籠もって。窓開けるよ」
「あ、待って」
「わかってるってば」
 以前、自分が窓を開けたときのように制止をかけようとしたらしい編纂者の言葉を遮ったかと思うと、テーブルの上に置いてあった、鉱石のサンプルをいくつか握り、ぽんぽんと書類の山の上に置いていく。
 あ、文鎮替わりか、と目を瞬いていると、風で飛びそうなものは大体押さえたらしい彼女が窓を開け放った。
 ふわりと室内に流れ込む清涼な空気と、柔らかい光。
 それを受けて、まぶしげに、そして、気持ちよさそうに目を細める。
「んー、気持ちいい。ありがと、零」
 それから女性を見上げ、にっこりと嬉しそうに微笑む。
 その優しく包み込むような笑みに、女性の口元が僅かに緩むのが見えた。
「別に、大したことじゃないし」
 そろりと目をそらし、そっけなく言い放つ姿は照れ隠しにしか見えない。
 それを見て、愛おしそうに笑みを深める。
「そ、それより、コレ! 頼まれてたサンプル!」
「わ! ありがとう! 流石に早いわね。頼りになるわぁ」
 腰につけていた採取容器を差し出されると、声が弾む。
 おおらかな笑みは、初めて見るもので、屈託がない。
(こういう顔で笑う人、なんだ)
 近づきがたい雰囲気を漂わせていたあの日とは全然違う。
「それと、レオから何かきてる。ほら」
「あ」
 本来自分が手渡すべき物が正しく受け取り主に届いたのを見た瞬間、呆けたように目を瞬いていたことに気付く。
 うっかり漏れた声に二人の視線がこちらに向く。
「あの、その、受け取りのサインをいただきたくて、えっと」
 まっすぐ向けられる二対の視線に、わたわたと片手に持っていた受け取りサインの用紙を突き出す。
「あら、御免なさいね」
 よいしょ、と小さくかけ声を漏らして立ち上がった編纂者に、女性が顔を顰めて「ババくせぇ」と呆れた様子でぼやく。
「もう立派におばちゃんに片足突っ込んでんのよ」
 通りすがりにぺちこんっと額を手の甲で小突いて、こちらに歩み寄ってくるのを待つ。
「わざわざありがとうね。で、サインはココ?」
「は、はい!」
「ん」
 にこりと微笑まれて、なんとも言いがたい落ちつかなさを感じる。
 そんな自分に構う様子もなく、さらりとペンを滑らせる。
 刻まれた署名を確認して、勢いよく頭を下げた。
「あ、ありがとうございました!」
「こちらこそ。ご苦労様」
「あ、いえ、その、失礼しました!」
 どぎまぎしながら、そのまま急いで回れ右してしまう。
 ぎこちなく歩き始め、しばらく離れてからちろりと振り返ると、こちらに背を向けて室内に戻る編纂者の姿が見えて。
 その向こうから彼女を見る女性ハンターの親しげな笑顔が見えた。
 数ヶ月前とは違う、落ち着きある空気はあの女性ハンターのおかげなのだろうか、と頭を過る。
 その空気感はなんだかとても尊く思えて。
「また、何か届け物あったら、私が持っていこ」
 リフトを使わず階段を歩いて降りながら、書き物に慣れた流れる筆跡のサインを見下ろして呟いた調査資源管理所の職員。
 彼女は、その口元に伝染したかのような笑みが浮かんでいることを、馴染みの学者らから指摘されるまで気付くことはなかった。


[No.19] 2019/06/06(Thu) 10:17:32
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