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   セリエナでのアレやコレ - たきゆき - 2019/11/06(Wed) 01:46:59 [No.25]
セリエナにレオくんもきましたよ - たきゆき - 2020/04/17(Fri) 00:01:08 [No.27]



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セリエナでのアレやコレ (親記事) - たきゆき

変りゆくものと変われないもの


「姉さんさぁ…」
 採取サンプルを収納する背中に掛けられた声に首を傾けて振り返ると、まじまじとこちらを見る零の姿を見付けた。
「髪型ずっとポニテ?」
 問いかけに目を一度瞬く。
「ああ。そういえば、新大陸に来てからずっとコレだわね」
 手ぶらでこの地を訪れ、僅かな学者としか交流を深めず、資料に埋もれて。
 そんな中で容姿や風貌に気遣うような心の揺れ動きは一切なかった。
 清潔にはそれなりに気を付けたつもりではいたのだが。
「たまには変えてみたら?」
「そうねぇ。それもいいわねぇ」
 こちらに来る前はもっとそれなりに装備にも楽しみを持っていた気がする。
 ガンナー装備の方が可愛い!いやいや、こっちのモンスター素材の方が、なんて、狩り友と話し合ったりなんかもして。
 いつからかしら、なんて、わかりきっている。
 人との交流を制限した時点で、だ。
「やっぱり駄目ねぇ…そんなことすら考えなくなっちゃう」
 思わず浮かべた苦笑に、呆れたような表情を返された。
「当たり前だろ。大体姉さんは、引きこもると駄目人間になるタイプだし」
「わあ、耳がいたーーい」
 わざとらしく両手で耳を押さえて見せると、口を尖らせて愚痴り始める。
「誰かいると無茶するし、いないと駄目人間……っていうか、人間として駄目になるし」
「おっと、お説教タイム再び!?」
「いや、別に説教ってわけじゃねーけど…」
「うん、わかってるわかってる」
 心配してくれてるんだよね?、と笑って顔を覗き込むと、すいっと目を反らす。
 その素直じゃないところがとても愛おしいのだが。
「そうねぇ、変えてみようかしら、髪型」
 呟きながら、ポニーテールの尻尾を自分でくんっと引っ張ってみる。
 こうして髪をしばりあげるより、下ろした方が、肩から力が抜けるかもしれない。
日々様々に移り変わるこの新大陸の有り様のように、新しいものを取り入れるというのも悪くない。
 セリエナに用意して貰った広いマイルームの二階部分で改めて室内を見回す。
 書斎兼研究用空間にしたそこには新たな素材や資料が山盛りになっている。
 これからもどんどん増えるだろう。
 新規の狩り場が構築されるというのはそういうことだ。
 見下ろす一階部分もいつまで今のような私室の体をとれているだろうか。
 そうなったら、環境生物もちょっと考えないとかもな、と思うと、先のことは不透明なことばかりで。
「まー、人生まだまだってことで」
「当たり前だろ。ってか、そうやってすぐ隠居じじい染みたこと言うよな、最近」
「どーも思ったように体動かなくなってきててさぁ。年とったわよね、って」
「だからって狩り場を離れる気はねー癖に」
「それはまぁ……そうなのよねぇ」
 思ったように戦えないと分かっていても、ハンターとしての自分を手放す気はないのだ。
 だから、こんなところまで来てしまったのだ。
 最近はソロがほとんどだが、対象モンスターが強くなってくれば、他のハンターとも狩りにでることがあるだろう。
 そこで足を引っ張らないようにせねば。

 引っ張るくらいならば、身を引かねばならないのだろうか?

「…………別にいんじゃねーの。やりたいようにやれば」
「ん?」
「ねーさんはいつだってやりたいようにやってきたんだし、これからだってさぁ」
 目線を合わせないまま、滝雪のマイルームの中に目を滑らせ、ベッド周辺でうろうろしているペンギンを眺め、僅かに目を細める。
「だってそれが姉さんじゃん」
 端的に真実を射貫く。
 簡単な言葉で、核心を突く。
 そんな零の性質を改めて目の当たりにして、言葉を飲み込んで。
「んふふ、あーーりがと!」
 横に並び、こつんと肩をぶつけるようにして笑う。
「気長に楽しくやっていきましょうかね」
「そうそう」
「せっかく来たんだし、ご飯でも食べてきなさいよ。色々話も聞きたいし。レオくんからの横流しでいいお酒あるわよー?」
「まじで!? ラッキー!」
「私宛の書類と一緒に混ざってた」
「レオも早く来りゃあいいのにな!」
「そうねぇ〜」
 明るい声で話しながら、階下に向かう二人の表情は、穏やかな笑顔で。
 普段は静かで、ペンの動く音や、環境生物の立てるおとしかしない室内が、その日は夜まで賑やかな話し声で満たされるのだった。

 


[No.25] 2019/11/06(Wed) 01:46:59
セリエナにレオくんもきましたよ (No.25への返信 / 1階層) - たきゆき

 新大陸に訪れてはや数年。淀みかけた好奇心の泉を今一度かき乱すように現れた、氷の大地に興味を引かれて海を越え。
 極寒の地における生命の進化についての研究に着手した自分が、また限界のラインを見失いかけていることに、うっすらと気付いてはいた。
 編纂者のためのセリエナ簡易資料室。
 小さなストーブが足下を暖める部屋で、うつらと瞼が落ち始めた。
(あ、これだめだ。またオトモや零に怒られる)
 そう考えてもずるりと上半身がテーブルへと傾く。
(…あぁ、でも。零は狩りで戻ってこないし、オトモも留守だし…、他の誰かが来ても気配で目が覚めるから…)
 言い訳にもならないようなことが頭を過ぎる中、両手の上に組む。
(ちょっとだけ…)
 そのまますっと意識が浅く沈む。
 それはあくまでも浅く、ほんのちょっとした刺激で目覚める眠りだ。
 だってここは安心して眠れる場所ではない。
 そのはず、だったのに。

 カタリ、と扉が開く音が遠くで聞こえた。
 ふわりと感じた何かの香りと、馴染みの気配。
 それを感じた瞬間、ほとんど無意識の世界で、安堵を覚えた。
「ユキ…? て。あーもう、まったくお前っちゅーやつは」
 呆れたような声が、優しさを伴って響く。
 普段なら人の気配や声がこんな側で発せられれば目を覚ます。
 それなのに、感じた安堵がより深い眠りを呼んで。
 すとんと完全に意識が落ちた。


 すぅすぅと穏やかな寝息を立てる顔を見下ろして、苦笑が漏れる。
「……ここまで完璧に信用されると、複雑だな」
 周囲に一足遅れて新大陸にやってきたレオニノも、遅ればせながらセリエナに上陸し、滝雪がいるという簡易資料室を訪ねたのだが。
 滝雪からの手紙や報告書、滝雪以外の周囲の調査員からの報告でも知っていたが、以前よりも研究にのめり込むようになったようだ。
 いや、以前に戻ったように、というのだろうか。
 狩猟団を作る前、基本的にソロでやっていたころも、研究にのめり込む時期とハンターとして活動する時期が交互にあったと聞いていた。
 緩くウェーブがかかる髪が頬にかかっているのに気付いて、指先でするりとすくい上げ、耳の後ろへと撫で流す。
 髪型を変えたのだなと内心で呟きながら、覗き込んだ顔は、寒さのせいか、少し顔色が悪い。
 ちらりと視線を向けた足元の小さなストーブでは不十分だったのだろう。
狩り場なら、ホットドリンクを飲むから、そう感じないのだろうが、拠点では控えているのか。
そして。
「やつれた感じはねぇな」
 そのことに、一つ安堵。
 新大陸行きの原因となった事件の時は、分かりやすくやつれていたから。
 旅立つ前の身柄拘束時に大分栄養は取らせて体型を戻させていたが、いかんせん、自身の安全管理が杜撰な彼女だ。心配はつきない。
 まぁ、今回はオトモ同行の上、零とも先に合流しているから、変化のあった時点で誰かしら動いたのだろう。
 滝雪の存在を教えることなく送り込んだ零が、自分の企んだ通り、再び交流するようになった時には密かに胸を撫で下ろしたものだ。
 なにしろ零と滝雪の間には、なんともいいがたい距離感があっただろうから。
 それでも顔を合わせさえすれば。
 零に対する滝雪の態度は変わっていないだろうから、それを目の当たりにすれば、壁などあってないようなものだ。
 それでも、零が新大陸についた後も、しばらくの間遭遇する気配がなかった間はひやひやしたものだ。
 滝雪の新大陸での様子は本人からの手紙とは別に定期監査の役割も持つ常駐ギルドナイトからも受けていたから。
 およそ、バルバレ時代の彼女とはかけ離れた閉塞性に、焦りすら感じていた。
 滝雪の止まった時間を動かしてくれた零には感謝である。
 ふと近づく者の気配に気付いた。
 馴染みのある気配、コレは。
 ガチャリとドアを開けて入ってきたのは、滝雪のオトモ。
 驚いた顔をした彼女に人差し指を立てて、しーっと合図をすると、心得たように口を閉じる。
 やれやれといった様子に苦笑を返しながら、声を潜めて問いかける。
「雪のマイルームに運んだ方がいいやろ。案内頼めるか?」
 言いながら、滝雪の肩と膝下に腕を回して、椅子から抱き上げる。
 ホントに雪はしかたないニャァというため息の後、小さく頭をさげて先導し始めるアイルーに続いて部屋を出る。

 とたんに吹き付け冷気に身じろぎするも目覚める気配のない滝雪を腕に抱き、足早にマイルームへと向かうレオニノの姿が周囲に目撃され、零が慌てて飛び込んでくることになることを、この時のレオニノは知ることがなかった。


[No.27] 2020/04/17(Fri) 00:01:08
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