[ リストに戻る ]
No.25に関するツリー

   セリエナでのアレやコレ - たきゆき - 2019/11/06(Wed) 01:46:59 [No.25]
セリエナにレオくんもきましたよ - たきゆき - 2020/04/17(Fri) 00:01:08 [No.27]
あんなんだったっけ? - たきゆき - 2025/02/03(Mon) 00:35:58 [No.28]



並べ替え: [ ツリー順に表示 | 投稿順に表示 ]
セリエナでのアレやコレ (親記事) - たきゆき

変りゆくものと変われないもの


「姉さんさぁ…」
 採取サンプルを収納する背中に掛けられた声に首を傾けて振り返ると、まじまじとこちらを見る零の姿を見付けた。
「髪型ずっとポニテ?」
 問いかけに目を一度瞬く。
「ああ。そういえば、新大陸に来てからずっとコレだわね」
 手ぶらでこの地を訪れ、僅かな学者としか交流を深めず、資料に埋もれて。
 そんな中で容姿や風貌に気遣うような心の揺れ動きは一切なかった。
 清潔にはそれなりに気を付けたつもりではいたのだが。
「たまには変えてみたら?」
「そうねぇ。それもいいわねぇ」
 こちらに来る前はもっとそれなりに装備にも楽しみを持っていた気がする。
 ガンナー装備の方が可愛い!いやいや、こっちのモンスター素材の方が、なんて、狩り友と話し合ったりなんかもして。
 いつからかしら、なんて、わかりきっている。
 人との交流を制限した時点で、だ。
「やっぱり駄目ねぇ…そんなことすら考えなくなっちゃう」
 思わず浮かべた苦笑に、呆れたような表情を返された。
「当たり前だろ。大体姉さんは、引きこもると駄目人間になるタイプだし」
「わあ、耳がいたーーい」
 わざとらしく両手で耳を押さえて見せると、口を尖らせて愚痴り始める。
「誰かいると無茶するし、いないと駄目人間……っていうか、人間として駄目になるし」
「おっと、お説教タイム再び!?」
「いや、別に説教ってわけじゃねーけど…」
「うん、わかってるわかってる」
 心配してくれてるんだよね?、と笑って顔を覗き込むと、すいっと目を反らす。
 その素直じゃないところがとても愛おしいのだが。
「そうねぇ、変えてみようかしら、髪型」
 呟きながら、ポニーテールの尻尾を自分でくんっと引っ張ってみる。
 こうして髪をしばりあげるより、下ろした方が、肩から力が抜けるかもしれない。
日々様々に移り変わるこの新大陸の有り様のように、新しいものを取り入れるというのも悪くない。
 セリエナに用意して貰った広いマイルームの二階部分で改めて室内を見回す。
 書斎兼研究用空間にしたそこには新たな素材や資料が山盛りになっている。
 これからもどんどん増えるだろう。
 新規の狩り場が構築されるというのはそういうことだ。
 見下ろす一階部分もいつまで今のような私室の体をとれているだろうか。
 そうなったら、環境生物もちょっと考えないとかもな、と思うと、先のことは不透明なことばかりで。
「まー、人生まだまだってことで」
「当たり前だろ。ってか、そうやってすぐ隠居じじい染みたこと言うよな、最近」
「どーも思ったように体動かなくなってきててさぁ。年とったわよね、って」
「だからって狩り場を離れる気はねー癖に」
「それはまぁ……そうなのよねぇ」
 思ったように戦えないと分かっていても、ハンターとしての自分を手放す気はないのだ。
 だから、こんなところまで来てしまったのだ。
 最近はソロがほとんどだが、対象モンスターが強くなってくれば、他のハンターとも狩りにでることがあるだろう。
 そこで足を引っ張らないようにせねば。

 引っ張るくらいならば、身を引かねばならないのだろうか?

「…………別にいんじゃねーの。やりたいようにやれば」
「ん?」
「ねーさんはいつだってやりたいようにやってきたんだし、これからだってさぁ」
 目線を合わせないまま、滝雪のマイルームの中に目を滑らせ、ベッド周辺でうろうろしているペンギンを眺め、僅かに目を細める。
「だってそれが姉さんじゃん」
 端的に真実を射貫く。
 簡単な言葉で、核心を突く。
 そんな零の性質を改めて目の当たりにして、言葉を飲み込んで。
「んふふ、あーーりがと!」
 横に並び、こつんと肩をぶつけるようにして笑う。
「気長に楽しくやっていきましょうかね」
「そうそう」
「せっかく来たんだし、ご飯でも食べてきなさいよ。色々話も聞きたいし。レオくんからの横流しでいいお酒あるわよー?」
「まじで!? ラッキー!」
「私宛の書類と一緒に混ざってた」
「レオも早く来りゃあいいのにな!」
「そうねぇ〜」
 明るい声で話しながら、階下に向かう二人の表情は、穏やかな笑顔で。
 普段は静かで、ペンの動く音や、環境生物の立てるおとしかしない室内が、その日は夜まで賑やかな話し声で満たされるのだった。

 


[No.25] 2019/11/06(Wed) 01:46:59
セリエナにレオくんもきましたよ (No.25への返信 / 1階層) - たきゆき

 新大陸に訪れてはや数年。淀みかけた好奇心の泉を今一度かき乱すように現れた、氷の大地に興味を引かれて海を越え。
 極寒の地における生命の進化についての研究に着手した自分が、また限界のラインを見失いかけていることに、うっすらと気付いてはいた。
 編纂者のためのセリエナ簡易資料室。
 小さなストーブが足下を暖める部屋で、うつらと瞼が落ち始めた。
(あ、これだめだ。またオトモや零に怒られる)
 そう考えてもずるりと上半身がテーブルへと傾く。
(…あぁ、でも。零は狩りで戻ってこないし、オトモも留守だし…、他の誰かが来ても気配で目が覚めるから…)
 言い訳にもならないようなことが頭を過ぎる中、両手の上に組む。
(ちょっとだけ…)
 そのまますっと意識が浅く沈む。
 それはあくまでも浅く、ほんのちょっとした刺激で目覚める眠りだ。
 だってここは安心して眠れる場所ではない。
 そのはず、だったのに。

 カタリ、と扉が開く音が遠くで聞こえた。
 ふわりと感じた何かの香りと、馴染みの気配。
 それを感じた瞬間、ほとんど無意識の世界で、安堵を覚えた。
「ユキ…? て。あーもう、まったくお前っちゅーやつは」
 呆れたような声が、優しさを伴って響く。
 普段なら人の気配や声がこんな側で発せられれば目を覚ます。
 それなのに、感じた安堵がより深い眠りを呼んで。
 すとんと完全に意識が落ちた。


 すぅすぅと穏やかな寝息を立てる顔を見下ろして、苦笑が漏れる。
「……ここまで完璧に信用されると、複雑だな」
 周囲に一足遅れて新大陸にやってきたレオニノも、遅ればせながらセリエナに上陸し、滝雪がいるという簡易資料室を訪ねたのだが。
 滝雪からの手紙や報告書、滝雪以外の周囲の調査員からの報告でも知っていたが、以前よりも研究にのめり込むようになったようだ。
 いや、以前に戻ったように、というのだろうか。
 狩猟団を作る前、基本的にソロでやっていたころも、研究にのめり込む時期とハンターとして活動する時期が交互にあったと聞いていた。
 緩くウェーブがかかる髪が頬にかかっているのに気付いて、指先でするりとすくい上げ、耳の後ろへと撫で流す。
 髪型を変えたのだなと内心で呟きながら、覗き込んだ顔は、寒さのせいか、少し顔色が悪い。
 ちらりと視線を向けた足元の小さなストーブでは不十分だったのだろう。
狩り場なら、ホットドリンクを飲むから、そう感じないのだろうが、拠点では控えているのか。
そして。
「やつれた感じはねぇな」
 そのことに、一つ安堵。
 新大陸行きの原因となった事件の時は、分かりやすくやつれていたから。
 旅立つ前の身柄拘束時に大分栄養は取らせて体型を戻させていたが、いかんせん、自身の安全管理が杜撰な彼女だ。心配はつきない。
 まぁ、今回はオトモ同行の上、零とも先に合流しているから、変化のあった時点で誰かしら動いたのだろう。
 滝雪の存在を教えることなく送り込んだ零が、自分の企んだ通り、再び交流するようになった時には密かに胸を撫で下ろしたものだ。
 なにしろ零と滝雪の間には、なんともいいがたい距離感があっただろうから。
 それでも顔を合わせさえすれば。
 零に対する滝雪の態度は変わっていないだろうから、それを目の当たりにすれば、壁などあってないようなものだ。
 それでも、零が新大陸についた後も、しばらくの間遭遇する気配がなかった間はひやひやしたものだ。
 滝雪の新大陸での様子は本人からの手紙とは別に定期監査の役割も持つ常駐ギルドナイトからも受けていたから。
 およそ、バルバレ時代の彼女とはかけ離れた閉塞性に、焦りすら感じていた。
 滝雪の止まった時間を動かしてくれた零には感謝である。
 ふと近づく者の気配に気付いた。
 馴染みのある気配、コレは。
 ガチャリとドアを開けて入ってきたのは、滝雪のオトモ。
 驚いた顔をした彼女に人差し指を立てて、しーっと合図をすると、心得たように口を閉じる。
 やれやれといった様子に苦笑を返しながら、声を潜めて問いかける。
「雪のマイルームに運んだ方がいいやろ。案内頼めるか?」
 言いながら、滝雪の肩と膝下に腕を回して、椅子から抱き上げる。
 ホントに雪はしかたないニャァというため息の後、小さく頭をさげて先導し始めるアイルーに続いて部屋を出る。

 とたんに吹き付け冷気に身じろぎするも目覚める気配のない滝雪を腕に抱き、足早にマイルームへと向かうレオニノの姿が周囲に目撃され、零が慌てて飛び込んでくることになることを、この時のレオニノは知ることがなかった。


[No.27] 2020/04/17(Fri) 00:01:08
あんなんだったっけ? (No.27への返信 / 2階層) - たきゆき

どっかに上げてた気がするんだが、見付けきれなかったので一応ココにも載せとく



「なぁ」
 古なじみ同士、偶然タイミングが合って狩りに行って。
 首尾良くクエストをこなして帰還したあとの呑み席で。
 ふと思い出したように呼びかけた。
「あのさ、一つ聞きたいんだけど、姉さんって昔からあんなんだったっけ?」
「あんなん」
 その表現に向かいに座っていた男が思わず繰り返した。
 それはその表現に思うところがあったというよりは、虚を突かれて、おうむ返しに答えたような感じだった。
「だからほら、前はもっとしっかりしてたっていうか」
「あぁ。そういう……。あー……どう言ったもんか」
 意味を理解して、苦笑したレオニノに、零はわずかに困惑した様子だ。
 そんな零を見て、レオニノが生暖かい笑みを浮かべる。
「お前もオトナになったんやな」
「はぁ? なんだそりゃ」
 弟妹の成長を喜ぶような言い方に、馬鹿にされてるのかと、零の眉間にシワが寄った。
「最初の頃は、回りを見る余裕なんかなく、全部が敵の中、仲間だけが違うって状態だったのにな」
「う、うるせぇ!」
 あの頃の視野の狭さは自覚している。
 今だって信頼できる人間が増えたかというとそうではない。
 人は汚く、簡単に裏切る者だという思考が和らいだわけではない。
 それでも、0か100かの二択ではないのだと知った。
「あの頃のお前や、年少組にとっちゃ、アイツの存在は別モンや。それをアイツ自身が自覚していた」
 あの時とは、見える世界が違う。
 そのせいだろうか?
 最近の滝雪と自分の知っている滝雪の差異が目につくのは。
 どれだけ反抗しようとも、憎まれ口を叩こうとも、揺らがないように見えた滝雪が、今はふわふわしてるように見える。
「俺があの猟団に合流した時は、既に初期勢は揃っていた」
 四人目の団員だった、というのは知っていた。
「その時点で、お前らの知るユキだった」
「そんな言い方するってこたぁ、その前は違うのか?」
「箱庭入りする前に、一通り人物調査はしとる。任務上な」
 その言葉で、レオニノの狩猟団入りが、ギルドナイトの任務だったことを思いだし、渋い顔になる。
「……そうだな」
 自身の顎髭をするりと撫でながら何かを思案したレオニノが問いかける。
「ユキが狩猟団結成前に、キャンプ地での素材違法売買事件に関わってたって話は知ってるか?」
「は?」
 全く初耳だった零がきょとんとするのにも構わず、レオニノは言葉を続ける。
「ハンター武器密造グループ摘発事件は? 飛竜の卵密売阻止作戦は?」
「ちょ、ちょっと待て!! なんだそりゃ!?」
 ろくでもない案件と、想像するにあまりある危険度に声を張る。
 それにレオニノが苦笑する。
「根っからのトラブル巻き込まれ体質なんだよ。そんでもって、気づくとその中心にいる。今あげた案件な、全部違うハンターグループや学者達と一緒に巻き込まれとる」
 特定のグループと一緒に、ではなく、その場にかちあった面子で巻き込まれたのだと。
「そんな中で、コミュニケーションを深め、信頼関係を構築し、一緒に事件解決に望んだ」
 滝雪のそうした様子は、容易に想像できた。
「それは、とても強い絆となりうるものだ。そのまま固定パーティを組んでもおかしくないほどに」
「……じゃあ、なんで」
 それだけの経験や人脈がありながらも、ギルドの後押しがなければ、初期組と合流することがなかったのか。
「一つは滝雪のもう一つの名前と立場が原因だろう」
 書士隊の六花というもう一つの顔。
 それは誰にも知られるべきではなものだった。
「もう一つは、おそらくだが……アイツ自身、地に足がついてなかったんだろうな。それこそ、今のようにふわふわと」
 浮世離れ、というのも少し違う。
「気づくことが違う。考えることが違う。見える世界が違う。違うことを自覚している。それでいい」
 六花は異質だった。
 幼少時から父親に連れられ、学者の中で育ち、母親に見守られハンターの資格を手に入れた。
 考える基本は学者として。
 動く基準はハンターとして。
 それが違和感なく両立しているが故に、どちらかだけは選べず。
「だけど、護る者を与えられ、傍で慈しむことを許された。その瞬間、地に足がついた。あの狩猟団は。あの場所はアイツの重しやった」
 滝雪であり、六花であることを知っているギルドからの後押しであり、かつ、そうであることを知っても仲間は態度を変えなかった。
 それはある種の救いであったのではないか、と思うのだ。
 気づけば真顔でレオニノの言葉を聞いていた零に、レオニノが穏やかに笑う。
「特別だったんだよ。俺たちはな」
 狩猟団という形を失っても、今だ全員を愛していると彼女が公言するほどに。
「まぁ、お前ら年少組は特に問題があったからな。支えてあげたいって思や、しゃきっと背筋も伸びるもんだろ。……いや、可愛くてたまんないってでろでろにもなってたがな」
「う……」
 猫可愛がりとでもいうのか。
 それこそ、でろでろに甘やかされた自覚のある零が頬を染める。
 一般的に可愛いという形容詞が似合わない自分に対して彼女がかける言葉はひたすら甘い。それは今も変わらない。
「そ、それじゃあ、今は!?」
 慌てて話を逸らすべく問いかけると、レオニノが手にしていたビールのジョッキを傾け一口のんでから答える。
「もう、護らんでも、導かないとって気を張らんでも大丈夫って思ったんだろ」
 姉のように、母のように包み込んでいなくても。
「ただただ大好き可愛いって言っててもいいって思ったんだろ。だから、六花と滝雪をいっしょくたにしてたあの頃のようにしてても大丈夫って」
 それは認められた成長の証で。
 満面の笑みで、両腕を広げて名を呼ぶ姿が瞼に浮かぶ。

「……いやダメだろ」

 思わず口を尖らせて答えた零に、レオニノは目を瞬いた。
「ダメだろ。あれ。自分の命の重さとか、残されるかもしれない俺らのこととか全部ぶんなげてんじゃねーか」
 まるで、自分たちを護らなくて良いのなら、他に護るものなんかない。
 そう言っているようで。
「絶対ダメだろ」
 いらだったように、ふて腐れたように、ダメだと繰り返す零に、ふはっとレオニノが吹き出した。
「お前ならそうゆうやろなって思ってた」
 我が意を得たりと笑い出すレオニノの足をテーブル下で軽く蹴る。
「だから、なんにも言わないで俺をここに送り込んだんだな?」
「察しがよーなったな?」
「ふざけんな!」
 げしげしと蹴り続ける零に、痛い痛いと言いながらも楽しげに笑い転げるレオニノを睨み付ける。
「あっちであった事件の時な」
 笑いをなんとか抑えながら口を開いたのは、滝雪が島流しに遭った原因にして、本人の口からは一切深刻さが伝わらない事件のこと。
「既にそういう傾向はあった。軌道修正できんかと思ってヴェレとも遭わせとる。ただ、いかんせん、いろんな所に目を付けられすぎた」
 貴族の計画に横槍し、ハンターギルドを無視して動いて警戒された。
 そこに、レオニノが最悪の飼い殺しをさせないためにと、書士隊と龍歴院を巻き込んだ。
「とてもアッチには置いておけん」
「そんなにか」
「ああ。かといって、新大陸にあいつがおることも、おおっぴらにはできん。だから総司令に身柄を預けた」
「レオ、総指令と親しいのか?」
「いや、手紙でやりとりしたことがある程度だな。ただ、ギルドナイト自体はこっちにも適宜派遣しとるから人となりは知っとった」
 思慮深く、理知的で、そのくせ、大胆な作戦も行える人物で、懐広く人柄も良い。
 まさしく歴戦の長と言える人物であると。
「五期団の要請があった直後だったからな。これから人員の精査、準備に入るが、その前に一人、貴殿を見込み、お預けしたい、とな」
 調査研究にも、必ずやお力になれる人材であると胸を張って言える研究者です、と続けたのはけして身贔屓ではない。
 事実多くの研究論文が出されており、それは確かに新大陸への理解を深める材料となっている。
「とはいえ、それだけじゃ足りん」
「そこで俺、と」
「お前なら、アイツのやらかしを見過ごしゃせんやろ」
「あんなにめちゃくちゃ手ぇかかる人になってんの、ほっとけるか!」
「その調子でバンバン叱り飛ばしてやってくれ」
「ふざけんな。っていうか、レオだってこっちに来たんだし、手伝えよな!」
「あー。……うん、そうだな」
 じっとりと半眼でにらみあげられるのに対し、言葉を濁す。
 はっきりと答えられないその理由は。
「レオは、ねーさんに甘すぎ!」
「あー…………すまん」
 ぽりっと頬を指で掻いて目を逸らすのは自覚があるから。
 更に言えば、久々にギルドナイト任務から離れられて触れたハンター業に心踊らせてのめり込んでいるのもある。
 なにしろ、アチラに帰れば、ここまで心行くまでハンターとして狩りに出ることも難しいのだから。
 新しくできた狩り友達の初々しさ、微笑ましさ、頼もしさも日々の楽しみだ。
 騒がしい毎日は、人間の裏や闇を突きつけられていた日々とは全く異なり、喜びと共にある。
 零にだって、ふざけあいながら狩りにいく仲間もいる。
 そんな二人を滝雪がそれは嬉しそうに見ている。
 だからこそ、自分だって楽しもうと思ってか、琴線に触れた案件への研究に熱が入るのだろう。
 距離感を再度模索していた時期は落ち着いたように思える。
 新しい世界をそれぞれに構築する時期なのだ。
「とはいえ、だ。深く考えすぎる必要はねぇよ。お前も、ユキも、なるようになるだろ」
「レオもな」
 ゆったりと微笑んで、手にしていたジョッキを持ち上げる。
「ちなみにそのユキだが」
「……ん?」
「三日ほど籠って飯も最低限で論文書いて寝落ちたらしいから、明日にでも説教にいくんだが、お前もくるか?」
「行く」
 目が据わってからの即答に、レオニノが吹き出す。
「なにやってんだホント!」
「もう言い訳が予想できるぞ」
「『うっかり熱中しちゃって』」
「『楽しくなっちゃって』」
「それだな」
「それだよ」
 ぶちぶちと愚痴を溢しながらも、へらりと申し訳なさそうに笑う笑顔が既に思い浮かぶ。
「明日が楽しみだな?」
 にっこりと笑う二人の笑顔はご立腹のときの笑顔だ。
 篝火が灯り、周囲からは他のハンターや給仕のアイルーが行き交う食事処で、うすら寒く微笑みあう。
 オトモアイルーにより布団にねじ込まれた滝雪は、大切な仲間達が自分のことについて話し合っていたことも、明日の朝の怒りの来襲予定も知らず、数日ぶりの眠りを堪能するのだった。


[No.28] 2025/02/03(Mon) 00:35:58
以下のフォームから投稿済みの記事の編集・削除が行えます


- HOME - お知らせ(3/8) - 新着記事 - 記事検索 - 携帯用URL - フィード - ヘルプ - 環境設定 -

Rocket Board Type-T (Free) Rocket BBS