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   新大陸でのアレやコレ - たきゆき - 2019/02/16(Sat) 03:02:19 [No.9]
新大陸でのアレやコレ2 - たきゆき - 2019/04/19(Fri) 22:25:14 [No.12]



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新大陸でのアレやコレ (親記事) - たきゆき

「アレ、お前さん、もしかして」
 唐突にすれ違い様かけられた声に足を止めた。
「ん?」
 振り返り、声をかけてきた男の方を見る。
 そこにいたのは眼帯装備をつけた顎髭の男で。
 見覚えがあるような、ないような、と思いながらまじまじと見て、記憶の中にあった一つの顔にヒットする。
「あ。アンタもしかして、MHDの?」
「ああそうだ。Nobutunaだ。お前さんは箱庭の太刀使いだな。零、だったか」
 記憶をなぞるようにして自分の顔を見てそう言った男を前に、思わず顔をしかめる。
 その単語は、苦楽を刻んだ居場所の名は、酷く神経を逆撫でする。
「……もう、箱庭はねぇよ」
 口調が固いものになってしまったのくらいは多目に見てほしい。
 とげとげしくならなかっただけ、ましだ。
「ああ、知ってる」
 こちらの気が立ったのを感じたのだろう。
 ただ淡々と事実を受け入れるようにうなずいて、それ以上の言葉を重ねることはなかった。
 バルバレという移動都市で所属した狩猟団。その頃に一時同じ町ですごした狩猟団の長をしていた男は、曲者ばかりの自狩猟団をまとめていただけのことはあるようで、空気を読むことに長けていた。
「お前さんも五期団か」
「ああ。も、ってことはアンタもか。気付かなかったな」
「……一人で、狩りに行ってるのか」
 装備の状態を見れば、今から狩りに行くのか、帰ってきたのかはすぐにわかる。
 すれ違った場所は、翼竜の宿り木付近で、回りに仲間らしきものはいない、となれば、それくらいはわかってしまうのだろう。
 元より、他の面子と和気藹々狩りに行くタイプではない。
 足手まといになるのなら一人で行った方がましだと思っている。
 狩猟団にいた頃ほど、背中を預けられる人間がいないもの原因の一つだ。
「だから?」
 それがどうした、と鼻で笑うと、少し何事かを考えるように口をつぐんだ。
 これで一緒に狩りにとでも言い出せば、こっぴどく振ってやる、と考えていたが、男が口に出したのは、全く別の話だった。
「お前さんところの元団長さんが、ギルドナイトに危険分子として拘束された、って話は聞いているか?」
「……はぁ?」
 なんだそれは。
 そんな思いが顔に出た。
「だんちょ……姐さんが? なんで」
 基本的に善良な人だった。
 ギルドと対立することがあっても、良心と信念にそむくことはしない人だった。
 酷くお人好しで、他者を呆れるほどに無防備に愛する人。
 そんな人が危険分子。
 しかも拘束したのが、元副団長であり、彼女の幼馴染みである男のいるギルドナイト。
 意味がわからない。
「彼女が昔、没にした論文が盗み出されて悪用され、その奪還と後始末に行くときにギルドに報告しなかったこと。悪用されると大惨事になる頭脳があるということ。その二つが大きな理由だそうだ」
「……なんっだそりゃ!」
 ぶわっと毛が逆立ちそうなほど、怒りに震えた。
 これまでその頭脳をいいように使ってきておいて、今ごろそんなことを言うのか。
 あの人からの信頼を自分達ギルドがぶち壊しておいて、そんなことをほざくのか。
 それを止められなかった元副団長にも怒りが沸いた。
「レオも! なにやってんだ!!」
 みすみすそんな扱いをさせるなど、あの一見穏やかで不憫属性なのに、腹黒で残忍にもなれる男をなじる。
「ああ、レオってのは確か元副団長、だったか。いや、ソイツは保護のため、そういう名目で手元に引き込んだんだっていう話だぞ」
「保護ぉ?」
「ああ。罪状をでっちあげ、彼女を投獄という名目で研究に飼い殺しにしたがったギルド絡みの貴族から守るため、書士隊と龍歴院にもリークして、三者から引っ張りあう形にさせたんだ」
 それらは彼女が違う名前で登録されていた学術機関の名前だ。
 学術的にも優れた成績のある彼女なら、欲しがるのは当たり前だろう。
「最終的には、持っていた全ての論文を放棄する形で提供し、島流し」
「全部放棄!? 島流しだと! ……島…?」
 憤りのまま繰り返し、ふと、言葉を止めた。
「……アンタ、やけに詳しいな。それ、どこで、誰に聞いたんだ」
嫌な予感がした。
何とも言えない顔をしている男を、ひきつった顔で見る。
はたして伝えられたのは。
「本人だ。気球墜落事件は知ってるな? それによって研究を主とする三期団と連絡がとれず、調査研究が暗礁に乗り上げていたところに研究者の増員として合流し、研究にあけくれ、ゾラ戦以降、陸珊瑚への開拓が進んでからはもっぱらあっちに詰めてる」
調査を進めるために、空を行こうとして墜ち、縦に傾いた船と、独特の語り口調の三期団団長を思い出す。
「まさか。だって、俺もあそこには行ったけど、逢ったこと、」
「陸珊瑚に魅せられほとんどフィールドにいるらしい。瘴気の谷のフィールドマスターみたいになるんじゃないかと心配されてる」
打ち上げられた魚のように口をパクパクさせて絶句。
否定したい。
「本人は、島流しの件…」
「あー……。やんなるわよねーなんて言って、けたけた笑い飛ばしてたな」
 零が理不尽さに激昂したはずの案件を、簡単に笑い飛ばすなんて。
 そんな。そんなこと。
「……やるな、あの人なら」
 そのあっけらかんとした笑い声すら聞こえてきそうだ。
 深いため息とともに、肩から力が抜ける。
 頭をぼりぼりとかきながら、踵を返す。
「……おい?」
「急用ができた」
 笑ってる場合かって一声言ってやらねばならない。
 どう聞いても堪えている様子はない。だったら、世間はそんなにいい奴ばかりじゃないんだって言ってやらないと。
 けして、久しぶりに逢ってみたいとか、元気か確認したいとか、そんなものではない。
 そう、けして。だから。
「……何笑ってんだこのやろう」
 肩越しにぎろりと睨むと、片手で口元を押え、顔を横に向けてくつくつ笑っていた男は誤魔化すように小さく咳払いして。
「いや、急用、ならしかたないな? うん。じゃあ、また縁が合えば」
「ふん」
 うっすら笑っている男に用などない。
 すぐに正面を向いて、真っ直ぐに翼竜の宿り木をめざして。
 目的地は陸珊瑚の台地一択だった。


[No.9] 2019/02/16(Sat) 03:02:19
新大陸でのアレやコレ2 (No.9への返信 / 1階層) - たきゆき

 ヒョコヒョコと地面から頭を覗かせ、辺りを窺うユラユラの群れに、無造作に近づくと、一瞬で地面へを頭を引っ込められる。
 陸珊瑚の台地。
 そう通称されるフィールドに足を踏み入れて歩く足取りは荒い。
 脳裏を過るのはここに降り立つ前に話を聞いた、第三期隊長の言葉だ。
 ゆるりと立ち上る紫煙が柔らかく空を彩るなか、探し人の情報を求めると、大きく一つ瞬かれた。
「あなた、あの子の知り合いなの。じゃあ、もしかして、あなたがあの子の『たからもの』かしら?」
 その一言にぐっと言葉に詰まってしまった。
 あの人の口癖をおもいだしてしまったから。
 愛情過多な人だった。
 仲間たちすべてが宝物だと言ってはばからず、大好きよと微笑んで、愛していると繰り返した。
 いっそのことみんなの母親になりたいくらいだと言った時は、そんな年齢じゃないだろって皆で呆れた。
 くすぐったいような思いを抱えて、伸ばされる手で撫でられるのを受け入れた。
 全てが壊れて、バラバラになってしまったあの場所。
 そこからこんなにも離れて遠い新大陸で、あの人はまだそんなことを言っているのだろうか。
 馬鹿だと思う。
 たぶん、あの場にいた誰よりも賢いはずなのに、馬鹿だと思う。
 哀れだとも思う。
 あの人はきっと変われないのだ。
 切り捨てられずに一人ででも抱え続けるのだ。
 そんな想いが胸につまって、頷いて肯定することも、ちがうと声を上げて否定することもできなかった。
 そんな自分を見て、何を思ったのか、会話を切り替えて告げられたのは、前回顔を見せてから10日程帰っていないという話だった。
 見つけたら帰るように言って、と言った竜人族の女性の嘆息に釣られてため息が漏れた。
 いくらなんでも狩り場に10日滞在はやりすぎである。
 しかも、それが最長ではなさそうなのが恐ろしい。
 ましてや、ここは解明されていないことが多数ある新大陸である。危険きわまりない。
 自身の安全には無頓着なところがあったが、それは今も変わっていないようだ。
 そここそ変わっていてほしかったのだが。
「ったく、どこにいるんだ」
 思わず漏れた独り言に返す声はない。
 とりあえず思い付くままに足を進め、少し開けた崖沿いのフィールドに近づいた時だった。
 けたたましいモンスターの叫びがつんざき、一瞬で意識が狩りの最中の研ぎ澄まされたもになる。
「レイギエナ……?」
 陸珊瑚の台地に生息する飛竜種のモンスターの声。それもこの声は。
「戦闘中?」
 外敵と戦っている時の威嚇する声だ。
 ハンターと戦闘中なのかと、気配を殺しながら近づく。
 と。
「って、わわわわっ!!」
 慌てふためいた女性の声が上がる。
 高く頭上に飛び上がったレイギエナがまっすぐに地面を走る女性を狙っていて、それから回避しようと地面に転がるその人は、探していた人で。
 慌てて、閃光弾をスリンガーに叩き込むが、間に合わないと経験で察する。
 声を挙げようとした直前に、斜め後ろからカッと視界を焼く閃光が迸った。
 運よく岩場に阻まれた零と背を向けるようにして緊急回避をしていた女性には影響がなかったが、レイギエナには効果覿面。
 情けない悲鳴とともに、地面に落ちる。
 がばりと勢いよく起き上がった女性が体を反転、ハンマーを振りかざして、声を張る。
「ツツイくんナイスタイミング!! いいこ!」
 ちらりと視線を向けた先にいたのはツィツィヤック。このフィールドを軽快に駆け抜けるモンスターだ。
 それに、まるで友達が手助けしてくれたかのように声をかける姿に脱力する。
 ツツイくんってなんだ。ツツイくんって。
 地面に転倒したレイギエナにハンマーの一撃を叩き込むまでが一動作。
 周囲の確認は最小限で、攻撃チャンスが最優先で動く体は、染み付いた反射だ。
 その彼女が、たちあがり始めたレイギエナに距離を取ろうとしながら、ぐるりと目線を滑られる。
 その眼差しが、岩場から立ち上がっていた零を捉えた。
「え」
 虚をつかれたように立ち尽くし、目を見開いた姿に、息をのむ。
 きょとんした様子が、まるで知らない人を見るようで。
(あ…)
 そういえば、自分の様相はあの頃と大きく違う。顔に刻まれた大きい傷もその一つ。
(俺だってわからない?……でもMHDの団長は気づいて……ってか、良く気づいたな、あのおっさん)
 名乗るべきか、焦って、思わずただ見つめ返した零の視線の先で。
「わ、嘘」
 ぱぁああっと一気に笑顔になった。
「零だーー!! なんでこんなとこいるの!?」
 嬉しくて仕方ないと書いてあるあけっ広げな笑みに、無意識で力がこもっていた肩から力が抜ける。
 一瞬の焦りなど、無意味であったと理解する。
(やっぱりこの人は変わらない)
 口許に苦笑が浮かぶ。
(俺たちが絡むと優先順位が狂うとこもな!)
「だん……姉さん!! 俺より先に後ろ!!」
 声を張り、大剣の柄を握りしめて走る。
 シギャアアアとフィールドに迸る咆哮に身を竦めた彼女、滝雪の側に並び、抜刀した武器を構える。
「話は後だ。いいよな」
「もちろん、聞きたいことがいっぱいあるもの! 元気だったのかとか色々!」
「こっちも話すことは一杯だ! ギルドナイトや貴族に騙されんじゃねーとか、狩り場に常駐しすぎとか色々な!」
「え、やだ! お説教の気配を察知ぃ!」
 ぎょっとした様子の彼女を軽く笑って、まずはこの目の前の雑魚を黙らせる為に地面を蹴った。


[No.12] 2019/04/19(Fri) 22:25:14
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