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セリエナにレオくんもきましたよ (No.25への返信 / 1階層) - たきゆき

 新大陸に訪れてはや数年。淀みかけた好奇心の泉を今一度かき乱すように現れた、氷の大地に興味を引かれて海を越え。
 極寒の地における生命の進化についての研究に着手した自分が、また限界のラインを見失いかけていることに、うっすらと気付いてはいた。
 編纂者のためのセリエナ簡易資料室。
 小さなストーブが足下を暖める部屋で、うつらと瞼が落ち始めた。
(あ、これだめだ。またオトモや零に怒られる)
 そう考えてもずるりと上半身がテーブルへと傾く。
(…あぁ、でも。零は狩りで戻ってこないし、オトモも留守だし…、他の誰かが来ても気配で目が覚めるから…)
 言い訳にもならないようなことが頭を過ぎる中、両手の上に組む。
(ちょっとだけ…)
 そのまますっと意識が浅く沈む。
 それはあくまでも浅く、ほんのちょっとした刺激で目覚める眠りだ。
 だってここは安心して眠れる場所ではない。
 そのはず、だったのに。

 カタリ、と扉が開く音が遠くで聞こえた。
 ふわりと感じた何かの香りと、馴染みの気配。
 それを感じた瞬間、ほとんど無意識の世界で、安堵を覚えた。
「ユキ…? て。あーもう、まったくお前っちゅーやつは」
 呆れたような声が、優しさを伴って響く。
 普段なら人の気配や声がこんな側で発せられれば目を覚ます。
 それなのに、感じた安堵がより深い眠りを呼んで。
 すとんと完全に意識が落ちた。


 すぅすぅと穏やかな寝息を立てる顔を見下ろして、苦笑が漏れる。
「……ここまで完璧に信用されると、複雑だな」
 周囲に一足遅れて新大陸にやってきたレオニノも、遅ればせながらセリエナに上陸し、滝雪がいるという簡易資料室を訪ねたのだが。
 滝雪からの手紙や報告書、滝雪以外の周囲の調査員からの報告でも知っていたが、以前よりも研究にのめり込むようになったようだ。
 いや、以前に戻ったように、というのだろうか。
 狩猟団を作る前、基本的にソロでやっていたころも、研究にのめり込む時期とハンターとして活動する時期が交互にあったと聞いていた。
 緩くウェーブがかかる髪が頬にかかっているのに気付いて、指先でするりとすくい上げ、耳の後ろへと撫で流す。
 髪型を変えたのだなと内心で呟きながら、覗き込んだ顔は、寒さのせいか、少し顔色が悪い。
 ちらりと視線を向けた足元の小さなストーブでは不十分だったのだろう。
狩り場なら、ホットドリンクを飲むから、そう感じないのだろうが、拠点では控えているのか。
そして。
「やつれた感じはねぇな」
 そのことに、一つ安堵。
 新大陸行きの原因となった事件の時は、分かりやすくやつれていたから。
 旅立つ前の身柄拘束時に大分栄養は取らせて体型を戻させていたが、いかんせん、自身の安全管理が杜撰な彼女だ。心配はつきない。
 まぁ、今回はオトモ同行の上、零とも先に合流しているから、変化のあった時点で誰かしら動いたのだろう。
 滝雪の存在を教えることなく送り込んだ零が、自分の企んだ通り、再び交流するようになった時には密かに胸を撫で下ろしたものだ。
 なにしろ零と滝雪の間には、なんともいいがたい距離感があっただろうから。
 それでも顔を合わせさえすれば。
 零に対する滝雪の態度は変わっていないだろうから、それを目の当たりにすれば、壁などあってないようなものだ。
 それでも、零が新大陸についた後も、しばらくの間遭遇する気配がなかった間はひやひやしたものだ。
 滝雪の新大陸での様子は本人からの手紙とは別に定期監査の役割も持つ常駐ギルドナイトからも受けていたから。
 およそ、バルバレ時代の彼女とはかけ離れた閉塞性に、焦りすら感じていた。
 滝雪の止まった時間を動かしてくれた零には感謝である。
 ふと近づく者の気配に気付いた。
 馴染みのある気配、コレは。
 ガチャリとドアを開けて入ってきたのは、滝雪のオトモ。
 驚いた顔をした彼女に人差し指を立てて、しーっと合図をすると、心得たように口を閉じる。
 やれやれといった様子に苦笑を返しながら、声を潜めて問いかける。
「雪のマイルームに運んだ方がいいやろ。案内頼めるか?」
 言いながら、滝雪の肩と膝下に腕を回して、椅子から抱き上げる。
 ホントに雪はしかたないニャァというため息の後、小さく頭をさげて先導し始めるアイルーに続いて部屋を出る。

 とたんに吹き付け冷気に身じろぎするも目覚める気配のない滝雪を腕に抱き、足早にマイルームへと向かうレオニノの姿が周囲に目撃され、零が慌てて飛び込んでくることになることを、この時のレオニノは知ることがなかった。


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[No.27] 2020/04/17(Fri) 00:01:08 (36760時間36分前)

五期団がくる数年前の話 (親記事) - たきゆき


「じいちゃん! どういうことだよ!」
 アステラの司令部。
 いつもの定位置に悠然と立つ総指令に、孫である調査班リーダーの青年が声を荒げながら詰め寄った。
「どうした」
 興奮した様子の青年を見ても、その毅然とした態度は揺るがないものの、珍しい様子に目を細める。
「ギルドナイトが危険人物として拘束したようなヤツを編纂者として受け入れるだなんて」
「……ああ。その話か」
 本日到着する予定の増援物資輸送船の積み荷について聞いたのだと察した総指令が納得したように頷いた。
「その話か、じゃねーよ! アステラは流刑地じゃねーぞ!」
 いらだたしげに声を荒げるのは、この新大陸育ちの彼にとって、流刑地のような扱いを受けたことに怒りを覚えたからだ。
「無論そうだ。しかし、お前も知っているだろう。現在、研究が暗礁に乗り上げていることを。彼の人物は優秀な研究者であり、複数の地区でG級まで上り詰めたハンターでもあるという。この過酷な新大陸に招くにふさわしい」
「だ、だからって、何か問題が起きたらどうするんだよ!」
 アステラの研究の発展を望む総指令の言葉に、一瞬ぐっと口ごもり、反論する。
 だが、それすらも大した反応を引き出すことができない。
「そう思うなら、お前が見張ればいいだろう。調査班リーダー」
 ぽんと責任を手元に放るように差し出されて、言葉を飲み込む。
 せめてもの反抗ににらみつけるも、総指令である祖父はその目線を悠々と受け止めている。
 それに、これ以上言っても無駄だと悟って。
「……っだったら、そうさせて貰う!」
 捨て台詞のように言い捨てて、くるりと身を翻す。
 そのまま憤然とした様子で賑やかになっている港の方に足を向ける。
 船が到着したのだろう。
 だったら、早速釘を刺しておかねばと、険しい表情のまま船着き場に向かう。
 ハンターを兼任できるというのなら、しかもG級というのなら、腕に自信があるのだろう。だとしても、負けるわけにはいかない。アステラの秩序を壊される訳にはいかない、と、使命感に燃えて歩き続き、荷下ろしの始まった船の横で仁王立ちする。
 見覚えのある船員達の他に、該当の人物がいやしないかと目をこらしながら。
 そんな調査班リーダーの耳に、明るい女性の声が届いた。
「せんちょーーう! ねぇ、コレも一緒に荷下ろししていいの? 私も手伝うけど!」
 初めて聞く女性の声だ。
 それに自然と目線を向けると、小柄な女性の姿が見えた。
 一つにまとめ上げた髪の色は、黒に近い茶色。細身の彼女は一つの大きな積み荷を軽々と抱え上げていた。
「おう、頼まぁ!! っていうかだなぁ」
 屈託ない笑顔の彼女に声を返しながら、苦笑する船長の姿が見える。
「アンタも今回の積み荷の一つなんだから、一緒に降りちまってくれや」
「あら失礼」
 呆れたような口調に、しまったというように苦笑する。
(積み荷……?)
 その言い方に、疑問が湧き上がった。
(……まさか…?)
思い浮かんだ予想に顔が引きつる。
 そんなまさか。
 いやだって、G級ハンターで、問題を起こしそうな研究者で。ギルドナイトにとっても危険人物という話で。
 抱えていた荷物を他の船員にも声を掛けながら所定の場所まで運んでいく。
 それが偶然自分の近くで。
「うん…?」
 凝視している調査班リーダーの視線に気付いた様子で顔を上げた彼女と目線が合う。
 東方の血が入っていると思われる彼女の年齢は非常にわかりにくいが、おそらくは年上、だろうか。
「……こんにちは…?」
 まじまじと見つめてくる青年を前に、へらりと軽く笑う彼女の苦笑に、躊躇い気味に問う。
「あ、アンタがタキユキ…か?」
「えぇ。滝雪です。はじめまして」
「危険人物として、追放されたっていう?」
 想像していた様相とは全く違う様子に困惑する。
 きっと、体格なり表情なりに、そうと読み取れる何かがあると思っていたのだ。
「そういうことに、なっちゃうわねぇ」
 今にも、困っちゃうわねぇとでも言い出しそうなあっけらかんとした様子に唖然とする。
「貴方は?」
 こてんと小首を傾げて問われて、はっとして背筋を伸ばして立ち、見下ろした。
「俺は、このアステラの調査班リーダーだ」
「あら。お迎えに来てもらった感じなのかしら? お手数かけてごめんね」
 屈託のない笑顔だ。
 だがしかし、これが本性とは限らない。
 限らないのだから、きちんと釘を刺しておかねば。
「一つ言っておく。アンタはギルドナイトから追放のような扱いでここにきたわけだが、アステラは流刑地ではない」
「うん…?」
 厳しい表情を作り、頭二つ分ほど小さい彼女をもぎろりと見る。
「ここにはここの秩序が有り、それを乱す者を許さない。そのことは肝に銘じておけ」
 ギルドナイトがいないから好き勝手出来ると思ってる貰っては困る。
 びしっときつい口調で宣言する。
 目線は相手を見抜くように鋭く、声音は冷たく。
 それに対し彼女は。
「あ。うんうん。オッケーです。了解」
 からっと笑って親指と人差し指とまるを作って見せた。
 少なからず気分を害すると確信しての言葉が完全に空回りしたことで、思わず口調が荒くなる。
「おい! ちゃんと聞いてるのか!」
「聞いてるよ?」
 いらだち交じりの言葉にも、心外そうに眉を寄せるのが彼女が見せた最低限の負の感情で。
 どんな言葉を続けて良いか口を閉口する調査班リーダーを見て、ふわりと笑った。
「っ!?」
 その穏やかな笑みにぎくりと身を強ばらせてしまう相手に構わず、目線をするりと動かして、船着き場から見える新大陸を見て、目をこらす。
「ここから見ただけでも植生が違うのが分かる。植生が違えば生態系も全く違う物になる」
 不意に、声色が変わった。
「いかに事前研究があるとしても、あらゆる面で手探りになるだろうし、それに熱中していれば他の事なんて考えなくていい。そうしていれば、時間が気持ちを解決してくれる、とか」
 どこか冷徹さすら漂う研究者の声で呟かれた独り言。
 その声色が瞬間変化した。
 何を思い出しているのか、すいっと細められた瞳が柔らかい表情で満たされる。
「考えたの、かな?……ほんとお人好し、というか」
 ふわりと口元が綻んで、遠くの何かを。
 否、誰かを探すように目を細めた。
 とても大切な何か思い、溢れた愛おしさのようなもの。
 柔らかい表情とは裏腹に少し泣きそうにも聞こえる声に、ぎくりと身を強ばらせてしまう。
 予想していたものとはかけ離れたソレ。
 年齢的にそういう恋情や愛情のようなものの経験がないわけではない。
 だけど、こんな深い、複雑としかいいようがない感情を思わせる声は知らない。
 思わず言葉を失い、動揺した様子に気付いたのか、まっすぐに青年を見上げ、切なげな表情の名残を残したまま苦笑した彼女にまごついてしまう。
「ココは流刑地じゃない。……うん。確かに了解した。肝に銘じて行動するとする。ココでの私は研究者として求められたんだもんね」
 にこりと笑った笑顔に、何か良くないものに触れてしまったことに気付くも、もう遅かった。
「で? 活動拠点になる部屋はあるかな? それと、情報としてまわってるかもだけど、ハンターとしてもそこそこ動けるから初期装備くらいは欲しいかな」
「え、ああ、もちろん…」
「よっし!じゃあ案内よろしくね!」
 すぐに表情を切替えた彼女は、憂いのカケラなど全く残っていない顔で笑う。
 それに、これ以上踏み込むことは出来なくて。

 研究室も兼ねる自室への案内と装備を調えるための鍛冶屋、同僚となる学者らへの紹介より以降は、めっきり近づくことはなく、アステラで時折すれ違っても挨拶程度。
 後に、追放に至った理由を詳しく知り、警戒の必要性を感じなくなっても、なんとなしに刻まれた苦手意識で微妙に距離をとってしまう調査班リーダーに、彼女は気にしている様子もなく研究に没頭していった。

 数年後、五期団が到着し、激動の刻が始まる。
 そのさなか、五期団の凄腕ハンターを前に、かつての仲間で可愛いうちのことデレデレになって笑み崩れる彼女の姿に、絶句することになることを、このときの彼は知るよしもなかった。


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[No.26] 2019/12/11(Wed) 16:22:51 (39816時間15分前)

セリエナでのアレやコレ (親記事) - たきゆき

変りゆくものと変われないもの


「姉さんさぁ…」
 採取サンプルを収納する背中に掛けられた声に首を傾けて振り返ると、まじまじとこちらを見る零の姿を見付けた。
「髪型ずっとポニテ?」
 問いかけに目を一度瞬く。
「ああ。そういえば、新大陸に来てからずっとコレだわね」
 手ぶらでこの地を訪れ、僅かな学者としか交流を深めず、資料に埋もれて。
 そんな中で容姿や風貌に気遣うような心の揺れ動きは一切なかった。
 清潔にはそれなりに気を付けたつもりではいたのだが。
「たまには変えてみたら?」
「そうねぇ。それもいいわねぇ」
 こちらに来る前はもっとそれなりに装備にも楽しみを持っていた気がする。
 ガンナー装備の方が可愛い!いやいや、こっちのモンスター素材の方が、なんて、狩り友と話し合ったりなんかもして。
 いつからかしら、なんて、わかりきっている。
 人との交流を制限した時点で、だ。
「やっぱり駄目ねぇ…そんなことすら考えなくなっちゃう」
 思わず浮かべた苦笑に、呆れたような表情を返された。
「当たり前だろ。大体姉さんは、引きこもると駄目人間になるタイプだし」
「わあ、耳がいたーーい」
 わざとらしく両手で耳を押さえて見せると、口を尖らせて愚痴り始める。
「誰かいると無茶するし、いないと駄目人間……っていうか、人間として駄目になるし」
「おっと、お説教タイム再び!?」
「いや、別に説教ってわけじゃねーけど…」
「うん、わかってるわかってる」
 心配してくれてるんだよね?、と笑って顔を覗き込むと、すいっと目を反らす。
 その素直じゃないところがとても愛おしいのだが。
「そうねぇ、変えてみようかしら、髪型」
 呟きながら、ポニーテールの尻尾を自分でくんっと引っ張ってみる。
 こうして髪をしばりあげるより、下ろした方が、肩から力が抜けるかもしれない。
日々様々に移り変わるこの新大陸の有り様のように、新しいものを取り入れるというのも悪くない。
 セリエナに用意して貰った広いマイルームの二階部分で改めて室内を見回す。
 書斎兼研究用空間にしたそこには新たな素材や資料が山盛りになっている。
 これからもどんどん増えるだろう。
 新規の狩り場が構築されるというのはそういうことだ。
 見下ろす一階部分もいつまで今のような私室の体をとれているだろうか。
 そうなったら、環境生物もちょっと考えないとかもな、と思うと、先のことは不透明なことばかりで。
「まー、人生まだまだってことで」
「当たり前だろ。ってか、そうやってすぐ隠居じじい染みたこと言うよな、最近」
「どーも思ったように体動かなくなってきててさぁ。年とったわよね、って」
「だからって狩り場を離れる気はねー癖に」
「それはまぁ……そうなのよねぇ」
 思ったように戦えないと分かっていても、ハンターとしての自分を手放す気はないのだ。
 だから、こんなところまで来てしまったのだ。
 最近はソロがほとんどだが、対象モンスターが強くなってくれば、他のハンターとも狩りにでることがあるだろう。
 そこで足を引っ張らないようにせねば。

 引っ張るくらいならば、身を引かねばならないのだろうか?

「…………別にいんじゃねーの。やりたいようにやれば」
「ん?」
「ねーさんはいつだってやりたいようにやってきたんだし、これからだってさぁ」
 目線を合わせないまま、滝雪のマイルームの中に目を滑らせ、ベッド周辺でうろうろしているペンギンを眺め、僅かに目を細める。
「だってそれが姉さんじゃん」
 端的に真実を射貫く。
 簡単な言葉で、核心を突く。
 そんな零の性質を改めて目の当たりにして、言葉を飲み込んで。
「んふふ、あーーりがと!」
 横に並び、こつんと肩をぶつけるようにして笑う。
「気長に楽しくやっていきましょうかね」
「そうそう」
「せっかく来たんだし、ご飯でも食べてきなさいよ。色々話も聞きたいし。レオくんからの横流しでいいお酒あるわよー?」
「まじで!? ラッキー!」
「私宛の書類と一緒に混ざってた」
「レオも早く来りゃあいいのにな!」
「そうねぇ〜」
 明るい声で話しながら、階下に向かう二人の表情は、穏やかな笑顔で。
 普段は静かで、ペンの動く音や、環境生物の立てるおとしかしない室内が、その日は夜まで賑やかな話し声で満たされるのだった。

 


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[No.25] 2019/11/06(Wed) 01:46:59 (40670時間50分前)

人混み抜けて (No.22への返信 / 3階層) - たきゆき

「うわっ!」
 背中からどんっと勢いよくぶつかられて、たたらを踏んだ。
 と、思ったら、斜め前を歩いていた連れとの距離が開いてしまった。
 バルバレに大規模なキャラバンが複数合流したのは、昨日夜のこと。
 一晩たった今日、街は人でごった返していた。
 二人で買い出しにでたはいいが、通りを歩くことすら困難で。
「れ、レオ君! ちょっと待っ、わわっ!」
 慌てて声をあげようとするも、押し寄せる人混みに更に引き離されかけて。
「っユキ!」
 声に振り返り、状況を悟ったレオニノが素早く手を伸ばし、人混みに呑まれかけた滝雪の腕を掴み、ぐいっと力強く引き寄せる。
「っへ、わっ!」
 先ほどから驚いた声しか上げられていない滝雪に構うことなく、片腕で近くに引き寄せて肩を抱き、人混みから守るように身を翻すレオニノの鮮やかなエスコートに連れられ、通りを横切り人混みを抜ける。
 テントとテントの間の路地のようになっている場所まで誘導され、ほっと一息つくと、頭の上から苦々しい声。
「今日の買い出しは辞めといた方がいいな。流石に人が多い。それに、こんだけ人が多いと、カモろうとして、値段つり上げるやつもでるやろ」
 既に肩を抱いていた手は離れており、未だ人波で溢れんばかりの通りから庇うように背中を向けている。
 その背中をぽかんと見上げる。
 一般的な青年男性よりも筋肉質で長身の後ろ姿は、なんとも頼もしく。
「ユキ?」
「んーーーー」
 きゅっと眉を寄せた滝雪を前に首を傾げる。
「どした?」
「レオくん、頼もしいなぁって」
「何、褒めてくれてんの? 褒めてるので何でそんな顔なん?」
「ちょっと悔しい気もする」
「ふはっ、何でだ」
 口を尖らせて褒める滝雪を前に、思わずと言った感じで吹き出す。
「負けず嫌い」
「性分ですぅ」
「知っとる。でもまぁ、こういう時くらいカッコつけさせぇ」
 照れの混じった様子で笑いながら手を伸ばし、丸い頭を軽く一撫でする。
「仕方ないわねぇ」
 人混みで少しばかり乱れた滝雪の長い髪を、流れるように指を滑らせて整えるレオニノの掌を黙って受け入れながら、くすぐったさに自身も微笑んだ。
「テントの裏から抜けて帰ろっか」
「せやな」
 そうして歩き出し、人気のない道を通って自分たちの家でもある設営地に向かう。
 うんざりするような人混みを背に、歩き出す二人の口元には微笑みが浮かんでいるのだった。


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[No.24] 2019/10/17(Thu) 00:31:29 (41152時間6分前)

後日談のような感じ (No.14への返信 / 6階層) - たきゆき

「あのさぁ…」
 白を基調とした室内。
 窓は開け放たれた上で白いレースのカーテンが設置されており、時折風で揺れる。
 そんな景色を見ながらぽつりと声を漏らす。
「んー?」
 それに生返事をしながら、手の中のナイフをなめらかに滑らせた彼の手元からは、しゃりしゃりと断続的な音がしている。
「仮にもギルドナイトの頂に立つ人間が、こんなに暇なわけないよね?」
 呆れたような口調とジド目を、ベッドサイドの椅子に腰掛け、リンゴを向いている男に向ける。
「仮にもってどーゆー意味や」
 ちらりとも視線を向けずに、むき終わった一切れをぐいっと口元に突き出されてため息。
「だぁから、なんっでレオ君が私に付き添ってリンゴなんか剥いてんの!って言ってるの!」
 ずいっとレオニノに向けた滝雪の手は、添え木代わりの分厚い布きれごと指先までぐるぐる巻きにされている。
「お前のその手じゃ、リンゴも剥けんじゃろ」
「いやそれはそうだけど!」
「普段なら回復薬とかって手ェもあるんに、お前が変なモン飲んどるせいで使えんからしゃーない」
「う、うぐ……そ、それは、その、悪かったけど」
 どういう副作用が出るかもはっきり分からない薬を飲んだ上、昏睡状態におちいった滝雪は、現在その薬が抜けきるまで一切の薬剤を使用禁止状態であった。
 他の薬を使用することで化学反応がおきないとも限らない。
 故に、自分の本来の治癒能力に頼るしかない。
 ずる剥けになった手のひらの回復は、普段を思えば、亀の這うような速度でしか回復していかない。
 それらすべてが自業自得である以上、そこを突かれると目を泳がせて謝罪するしかない。
 だが、本題はそこではなく。
「それにお前は今、危険人物としてギルドナイトで監禁中やぞ。見張りくらい付くにきまっとる」
「だ、だからって、忙しいレオくんじゃなくても良くない?」
「お前は油断ならん」
「はあ?」
「人たらしだからな。下手な人選だと丸め込まれかねんやろ」
「しっつれいな!人を詐欺師みたいに」
「悪意がないだけ、余計手に追えん」
「えーー。大袈裟な」
「心配いらん。適切な人材が来るまでの繋ぎや」
「適切な人材ぃ」
 眉間に眉を寄せた滝雪に、いいから食えと言わんばかりに切ったリンゴをつき出す。
 レオニノの表情は穏やかでフラットだ。
 滝雪の苦情を気にした様子もない。
 わかっているからだ。本当は。
 滝雪だって、レオニノがここにいるのは、必要性にかられたからだと。私情が全くないとは言えないし、かこつけてる部分もあろうが、それだけではない。
 だからこの会話はただのじゃれ合いに過ぎない。
 理解しているからこそ。
 仕方ないなぁと言わんばかりの表情でがぶりと噛みついた滝雪の眉間からは速攻で皺が消える。
「ん。美味しい!」
「やろ?」
 口のなかに広がる果汁の瑞々しさに、歓声をあげて微笑み、穏やかな時間を楽しんでいると、どこかから廊下を駆ける音が響いた。
「ん?」
「……来たな」
 もぐもぐしながら目で問う滝雪に応えることなく独白して素早くリンゴを皿に下ろして立ち上がる。
 と同時に、バアン!!と激しい音を立ててドアが跳ね開けられた。
「姐さん!?!」
 飛び込んできたのは赤髪の女性ハンターだった。
「ヴェレ!」
 その姿を見た瞬間、嬉しげにトーンをあげた滝雪とは裏腹に、ハンター、ヴェレッタはもどかしげに声を荒げる。
「怪我して倒れて、入院中って何事! おまけに身柄拘束って!」
 心配そうに顔を曇らせて駆け寄り、急いでベッドの上の姿を目で検分する。
「手、どうしたの? もう、また一人で無茶したんでしょ!!」
「あっ。いやいや大したことないから」
「自作の効能不明な薬で痛み消して、ハンマー握って大暴れして、手の平の皮膚ほぼ全部剥けたんだよな」
「ちょ、レオくん!」
「おまけにそのまま昏倒して、昏睡状態」
「レオ君、しーっしーっ」
 明らかに、「やばい!」という顔をした滝雪の横で重ねられた暴露に、その表情が悲しげに曇っていく。
「い、いやあのね? 本当にもう大丈夫だから! 色々あったトラブルはかなり序盤でレオくん来てくれたし! 怪我はね、その久しぶりの狩りではしゃいじゃった結果っていうか。その……えと、ご、ごめんね?」
「ねぇさぁん?」
「ひえ」
 心配と怒りとを混ぜ混んだ表情に、あわあわと手を意味もなくばたつかせながら謝罪を重ねる。
「うん。やっぱり、適任やな」
 うんうんと頷きながら言うレオニノに、滝雪は恨めしげな眼差しを、ヴェレッタは訝しげな眼差しを向ける。
「適任って」
「やから、コイツの見張り」
「見張り?」
「まぁ、任務やな。コイツが他の誰かと接触せんように見張れ」
「接触ってむぐっ」
 ベッドサイドのテーブルにリンゴののった皿を置きながらの言葉に、思わず反論しようとした滝雪の口に、リンゴの一欠けをぐいっとねじ込んで言葉を封じる。
「ギルドナイトに、いや、俺に不利益がないようにするため、元凶になった盗人を庇うため、自分一人で責任を背負おうと画策しかねんコイツを見張れ。一切他者との接触を許すな」
 厳しく強い口調で言いながら、ヴェレッタを見つめる。
 その目を受けてヴェレッタはこくりと頷いた。
「了解」
「じゃ、ここは頼んだ。ユキ、大人しぃしとけよー」
 恨めしげな顔のままの滝雪にもしっかりと釘を刺してから、レオニノが部屋を後にする。
 ぱたんとドアが閉まるのと、口に放り込まれたリンゴを食べ終わるのがほぼ同時。
 落ちた沈黙に、ハハ、と乾いた笑いが漏れた。
「ばれてーら」
「ばれないと思う方が嘘でしょ」
 呆れかえった声に、へにゃりと笑う滝雪の横、レオニノが先ほどまで座っていた椅子に座る。
「姐さんさ」
 ひょいっとその顔を覗き込んで、その琥珀のような瞳が真摯な光を宿す。
「あの頃と変わらず、私達のこと好き?」
「勿論よ。何を言うの。当たり前じゃない」
 その問いに驚いたように目を瞬き、憮然と返すのを受けて、頷く。
「うん。私も変わらず姐さんが大好き。だからさ、姐さんが私達を守りたいって思ってくれるように、私達も守りたいって思うの。前みたいに一緒にいれないから、前よりもずっと」
 姐さんもそう? と問われて、ゆっくりと苦笑した。
 そうだと答えるように頷きながらも、両手を伸ばして、その頬を包む。
 指先は白い包帯に包まれているし、固定具のせいで感覚は伝わらない。だから顔を引き寄せて、こつんと互いの額を触れあわせた。
 はっきりと自分の心情を直球で伝えてくる。ヴェレッタのそういうところに弱いのは今も昔も変わらないのを思い知る。
「いつの間にそんな殺し文句を言うようになったのかしら」
「姐さんの影響じゃない?」
「えーー。嘘だーー」
「姐さん自覚ないんだもん」
 至近距離で笑い合いながら、甘えるようにハグするのを受け入れる。
「仕方ない。諦めて大人しくしとこうかな」
「やったね!」
「せっかく久しぶりに会ったんだし、最近のヴェレについてお話聞きたいなぁ?」
「姐さんの話もね!」
 仕方ない、肩を落として見せてから、愛おしげな眼差しでヴェレッタに微笑む滝雪に、ヴェレッタも屈託ない笑みを返す。
 身柄拘束という不穏極まりない単語で作られた庇護の檻にて、当分行動を制限されることが決定しながらも、滝雪は幸せそうに笑うのだった。


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[No.23] 2019/07/26(Fri) 01:37:24 (43143時間0分前)

赤毛双子との出会いを遡りたい話 (No.16への返信 / 2階層) - たきゆき

滝雪さんのお話、幼少時にまで遡りたい。
某貴族のパーティーに赤毛兄弟が招待されてたけど、腹黒貴族の客に追い回され迷子になったのを、偶然見つけて人のいる場所まで案内する幼女とかどうすか。
ホスト貴族宅の書庫に父と誘われてたけど、本当はパーティの最中は外でちゃ駄目なのに出て、会ったとか
雪さんがギフテッドの疑いを持たれ始めた頃で、その能力がどの程度か調べるための訪問で、何に巻き込まれるかわからないから、誰にも会っちゃダメ。
だけど、窓の外見てたら、ちっちゃいこが二人で逃げてて、助けに行っちゃった雪さん。
会ったことは内緒ね、って言いながら、安全地帯までご案内。
でも裏道通ったせいで、雪さんが案内したのはすぐばれて、ホスト貴族からは誰にも会ってはいない。いいですね?と念を押される。
それに、会ってないです。だから会ってもいないのに、その誰かが怒られることはないですよね、とか言って、苦笑され、優しい聡明なご子息だとか言われてればいいなって。


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[No.22] 2019/07/20(Sat) 19:44:41 (43268時間53分前)

昔話 (親記事) - 龍輝

最初に抱いた感情は、“恐怖”だった。
ハンターになったばかりで生傷が絶えず、ギアノス達を狩りポポやガウシカを狩り、肉の捌き方皮の剥ぎ方など、まだそういった知識を自分の物にしていく段階だった。
その日だって、ただの納品クエストだったのだ。
しかしいつもと違い静かだった。
もとい、静か過ぎた。
山頂へと向かうためにホットドリンクを飲み、洞窟を抜けるときでさえ静かだった。
雪が音を吸収するとは言え、いくらなんでも本当に、“静かすぎた”のだ。
嫌な緊張感が自身を包んだ。
洞窟を抜け、やっとポポの群れを見つけ安堵の溜息を零した矢先。

静かな雪山に響く咆哮。

頂上から群れに目掛け、文字通り飛び降りた巨躯。
食らいつかんと大口を開け、牙を剥き、腕(カイナ)を振るい、爪が煌めく。
その姿を視認して、とたんに血の気が引いた。

無理だ、あれは無理だ。
だってそうだろう。
奴のせいで雪山から落ちたんだ。
奴の地面を抉り飛ばした土塊で。
奴の駆けために発達した前腕で。
奴の如何なるものも噛み砕こうとする顎(アギト)で。
奴の二つ名に見合う轟音に鳴り響く声で。

強者が。
轟竜ティガレックスがそこに君臨した。

その後は死に物狂いで逃げ出した。
背後から迫り来るものから、必死で。
まだ双剣を使っていた頃。
攻撃の素早さと手数で一番使い易いと、見合った武器だと思っていた。
しかしこの武器で、そして碌に強化も出来ていない防具で懐に入り込むなど自殺行為だ。
今は逃げるしかない。

ただただ、恐れたのだ。


―――――……


「――…だったってぇのになぁ」

ここはポッケの雪山ではなく、フォンロンの古塔の上。
目の前に鎮座する赤い轟竜…否、大轟竜。
宙に舞う赤い粉塵がバチバチと小さく爆ぜている。
ティガレックスである事で、ふと昔の記憶が脳裏を過ぎったのだ。

友のお陰でトラウマは払拭されたが、それでも恐怖は残ってはいる。
しかしそれもまた一興。
自分より力を持つ存在に恐れずに居るなど到底不可能なのだ。
ならばその恐怖でさえ、命の駆け引きでさえ、楽しむしかないのだと。
相対するものの強さと、己の脆さ、弱さも受け入れ、立ち向かうしかないのだと。
思わず口角が上がってしまうのはどうしてだろうか。
「ハーイキティ、一緒にダンスと洒落こもうじゃねぇか」
こちらに気付いた希少種が、立ち込める暗雲に咆哮を響かせ、同時にライトボウガンを構え駆け出すのだった。


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[No.21] 2019/07/19(Fri) 10:02:31 (43302時間35分前)

編纂者さんそのに (No.18への返信 / 1階層) - たきゆき

 本土から例の編纂者への資料が届いた。
 そうした届け物を届けるのは調査資源管理所の仕事の一つだ。
 G級ハンターだと名乗っていた彼女は相変わらず学者達との接触が少ない。
 というよりも、他者とのと言って良いかもしれない。
 つい先日までは陸珊瑚の台地に常駐していたかと思うと、帰還したアステラでは再びマイルームに引きこもりだ。
 以前、用事で部屋を訪れた時の、なんとも言いがたい不可侵を思わせる空間を思い出しながら、部屋の入り口に立った。
 室内に声を掛けるも、返答はない。
 仕方なく、おずおずと戸に手を掛けようとしたところで、背後から不思議そうな声が掛けられた。
「アンタ誰」
 訝しげな声に、慌てて振り返ると、そこには赤髪のハンターがいた。
 声からして女性なのは間違いないのだが、その顔に走る大きな傷と、全身から漂う精悍な雰囲気に気圧される。
「あ、あのっ、滝雪さんに届け物を」
「届け物? 姉さんに?」
 ぎゅっと眉を寄せて不機嫌そうに呟かれて、びくりと震える。
 何が彼女の不快をかったのかわからない。
「誰から?」
「え、あの、あっ!」
 個人的な物かもしれないと迷うそぶりを見せた瞬間、伸びた手が小包を奪い取っていった。
「その! ギルドナイトからなので、重要書類かもしれないから! かっ、返し」
「なんだ、レオからじゃん」
慌てて食い下がろうとした先で、あっけらかんと誰かの名前があがる。
 途端にとがっていた空気が和らぐ。
「ふーん……ねーーさーーん! 入るよ!」
 知り合いなのかと驚く間に、彼女が大きな声を上げながら、無造作にドアを開く。
 それに対してぎょっと目をむいた。
 思い出す前回の訪問時。
 室内に満たされてた、独特の空気。
 静謐で、神秘的さすら感じる空気を叩き壊すごとき様子に、あの編纂者がどういう反応を示すのかと思い、おそるおそる後ろに続く。
 受け取りの証を貰わねばならないのだから、しかたないと思いつつ、そっと覗き込む。
「姉さん? どこに、あ、もう! また床で寝て」
 呆れた口調で言いながら、大きなため息。
 ずかずかと歩く度に、足下の埃が舞い上がるのが見えた。
「んぅ…? 零?」
 もぞりと動く布は使い込まれた毛布で、そこから、茶色の髪が覗いていた。
「そんなとこで寝るなって俺言ったじゃん。それに空気も籠もって。窓開けるよ」
「あ、待って」
「わかってるってば」
 以前、自分が窓を開けたときのように制止をかけようとしたらしい編纂者の言葉を遮ったかと思うと、テーブルの上に置いてあった、鉱石のサンプルをいくつか握り、ぽんぽんと書類の山の上に置いていく。
 あ、文鎮替わりか、と目を瞬いていると、風で飛びそうなものは大体押さえたらしい彼女が窓を開け放った。
 ふわりと室内に流れ込む清涼な空気と、柔らかい光。
 それを受けて、まぶしげに、そして、気持ちよさそうに目を細める。
「んー、気持ちいい。ありがと、零」
 それから女性を見上げ、にっこりと嬉しそうに微笑む。
 その優しく包み込むような笑みに、女性の口元が僅かに緩むのが見えた。
「別に、大したことじゃないし」
 そろりと目をそらし、そっけなく言い放つ姿は照れ隠しにしか見えない。
 それを見て、愛おしそうに笑みを深める。
「そ、それより、コレ! 頼まれてたサンプル!」
「わ! ありがとう! 流石に早いわね。頼りになるわぁ」
 腰につけていた採取容器を差し出されると、声が弾む。
 おおらかな笑みは、初めて見るもので、屈託がない。
(こういう顔で笑う人、なんだ)
 近づきがたい雰囲気を漂わせていたあの日とは全然違う。
「それと、レオから何かきてる。ほら」
「あ」
 本来自分が手渡すべき物が正しく受け取り主に届いたのを見た瞬間、呆けたように目を瞬いていたことに気付く。
 うっかり漏れた声に二人の視線がこちらに向く。
「あの、その、受け取りのサインをいただきたくて、えっと」
 まっすぐ向けられる二対の視線に、わたわたと片手に持っていた受け取りサインの用紙を突き出す。
「あら、御免なさいね」
 よいしょ、と小さくかけ声を漏らして立ち上がった編纂者に、女性が顔を顰めて「ババくせぇ」と呆れた様子でぼやく。
「もう立派におばちゃんに片足突っ込んでんのよ」
 通りすがりにぺちこんっと額を手の甲で小突いて、こちらに歩み寄ってくるのを待つ。
「わざわざありがとうね。で、サインはココ?」
「は、はい!」
「ん」
 にこりと微笑まれて、なんとも言いがたい落ちつかなさを感じる。
 そんな自分に構う様子もなく、さらりとペンを滑らせる。
 刻まれた署名を確認して、勢いよく頭を下げた。
「あ、ありがとうございました!」
「こちらこそ。ご苦労様」
「あ、いえ、その、失礼しました!」
 どぎまぎしながら、そのまま急いで回れ右してしまう。
 ぎこちなく歩き始め、しばらく離れてからちろりと振り返ると、こちらに背を向けて室内に戻る編纂者の姿が見えて。
 その向こうから彼女を見る女性ハンターの親しげな笑顔が見えた。
 数ヶ月前とは違う、落ち着きある空気はあの女性ハンターのおかげなのだろうか、と頭を過る。
 その空気感はなんだかとても尊く思えて。
「また、何か届け物あったら、私が持っていこ」
 リフトを使わず階段を歩いて降りながら、書き物に慣れた流れる筆跡のサインを見下ろして呟いた調査資源管理所の職員。
 彼女は、その口元に伝染したかのような笑みが浮かんでいることを、馴染みの学者らから指摘されるまで気付くことはなかった。


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[No.19] 2019/06/06(Thu) 10:17:32 (44334時間20分前)

新大陸の謎の引きこもり編纂者(?) (親記事) - たきゆき

書類の山にうずもれている部屋には紙やインクの香りが籠っていて、どこか、古い書物を集めた図書館のような静謐な空気を醸し出していた。
いくつもの紙の塔の向こう、ちらりと見えたのは足元に落ちた毛布。
否、毛布だけではなかった。
それは家主らしき女性を包んでいた。
疲れて眠ったのか、表情は穏やかではない。せめて空気の入れ換えをと思い窓に近づいた時。
「窓開けないで。紙が飛んじゃう」
不意に足元から響いた声にびくりと振り返る。
「いつ起きたのかって?一応G級ハンターよ?私」
むくりと起き上がり大きく伸びをしてから微笑む。
「気配には敏感なの」


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[No.18] 2019/06/03(Mon) 05:09:17 (44411時間28分前)

#子どもの日なのでry 子ども時代の姿を語る (親記事) - たきゆき

幼少時から学者の父が友人学者と話しているところで本を読んでることが多かった。ある日、その内容を理解していることに気付いた周囲が面白がってありとあらゆる知識を語りきかせたことが書士隊六花の根本。
母親はハンターで父の護衛が出会いのきっかけ。母の狩り友からも娘扱いされて可愛がられてた。

両親ともに急がしい日は、母親のオトモアイルーが子守をしていた。たまにアイルーの巣にも遊びに行ってた。同年齢くらいのアイルーはみんなお友達。母の狩り友が萌えの感情に貫かれ作った猫耳フードをかぶって、ミャアミャア声まねして一緒に遊んでた姿は黒歴史。

常に周囲には大人ばかりで子供はいなかったので、人間の同年代の友人はほぼ皆無。その為、父が参加するため連れて行かれた学会で、出会ったある貴族の子息子女を弟妹のように可愛がっていたが、娘が異常と察した両親が目立たせないために学会参加を減らし、会うことがなくなる。

学者との接触率より、ハンターとの接触率があがり、自然とハンターという生き方に惹かれてハンターをめざし始める。両親がバルバレを拠点としたため、旅暮らしが日常だった。しかもクエストのために他の街にも行くので、定住生活という物に縁がない。

ハンターになると決まったときに、額に蒼い墨化粧を教わった。いわゆる生きて戻ってくるおまじないのようなもの。最初は上手にできなくて、オトモアイルーにしてもらっていた。本の虫でありながら、思いつきで突拍子もないことをする行動派なので、問題児扱いされていた。自覚はもちろんない。


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[No.17] 2019/06/03(Mon) 05:01:37 (44411時間36分前)


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