ぼくの瞳が痛みに染まって あなたの白い二の腕に滴り落ちるとき 深いこころの森並みに啼く風のあることを あなたは知っていますか
軽やかに そして 強靭に踏み出すあなたの歩みと 歩むぼくほどの こころとこころの距離を 辰星の瞬きよりも軽やかにかき消してしまう 頸(つよ)いあなた
ぼくの二つの瞳孔は 寂しさいっぱいにあなたを見つめて そして なにごともなかったように 静かに朱の痛みに染まってゆくのです
あなたは知っていますか 〈四月は残酷極まりない月だ〉 と 詠った 遠い霧の国の詩人がいたことを そして あなたも密かに 四月の訪れを止めてしまったことを
冬から冬に駈け抜けてしまった あなたの氷室に まるで 埋れ木のように 春を閉じ込めてしまったことを
ぼくの二つの瞳孔は 寂しいこころで じっとそれを見つめてしまったのです
でも あなた 永遠に帰らぬあなたとぼくの間に 凍った春は呵責ではなく むしろ愛の響きを送りつづけていることを ぼくはあなたに知って欲しいのです
優しい瞳が痛みに染まって あなたのこころに降り積もるとき 人知れぬ森並みに啼く風のあることを ぼくは語るのです
*四月は残酷極まりない月だ T.S.エリオット 「荒地」より
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No.144 - 2023/09/23(Sat) 00:10:58
| ☆ Re: 埋れ木の春 / 齋藤純二 | | | 棺の中に入るあなたを見て涙が止まらない状況でしょうか。 その様子を「春を凍らしてしまった」という表現は鮮烈な印象を与えます。 そして、あなたの何事もなかったような表情から 四月の訪れを止めてしまったことすら知らないという残酷さが 希望のわく春とは真逆のシュチュレーションも強い印象を与えています。 ぼくが語り続けることであなたと繋がりを感じつつ、 この愛を知ってほしいという なんともせつない気持ちが伝わってきました。
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No.159 - 2023/09/24(Sun) 14:04:03 |
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