秩序なき世界が想像できるとしたならば、 そいつは神をもまた創造できるに違ひない。 しかし、脳という構造をした頭蓋内の闇たる《五蘊場》の記憶は、 しかし、自在に過去と現在をつなぎ合はせ、 また、近い将来を予想することで過去の記憶を持ち出し、 つまり、《五蘊場》では因果律は既に紊乱してゐる。
いくつもの記憶の糸が輻輳し、または離散を繰り返しながら、 現在とは違ふ《五蘊場》のみで辻褄が合ふ表象による世界が生み出される。 その現実と《五蘊場》内に表象された世界の齟齬に苦虫を噛み潰すやうにして、 私はその狭間を行ったり来たりしながら揺れ続け、 さうして現在を測鉛してゐるのかも知れぬ。 現在を測ると言ふ無謀な思考実験を試みて、 さうして現実を見誤る誤謬をして、 それが現実だと何の根拠もない空元気のみで主張するしかないのだ。 しかし、現在に取り残されるばかりの私は、 更に《五蘊場》を弄りながら現実らしい表象を現実に見立て、 尚も現実を敢へて誤謬するのだ。
それは言ふなれば態(わざ)とさうしてゐて、 私は何時までも現実を見たくなく、逃亡してゐるに過ぎぬ。 そして、そんなお遊戯をしてゐるうちに現実は渾沌に身を委ね、 現実はするりと私の思索の上をゆき、 想像以上のことがいつも現実では起こり得、 それにどんでん返しを喰らひ、それに面食らひつつも 私は「へっへっ」と力なく嗤ひ、 空を見上げるのだ。 そして、蒼穹には何処かぬらりとした感触のものが 明らかに存在するが如くに吾が身を抱く。
その時、いつも気色悪い虫唾が走る。 ならばと私もそのぬらりとしたものを抱きしめて、 さうして現実の感触を堪能するのだ。 それは何処まで行っても不快でしかなく、 その不快を以てのみ現実に対する無謀を繰り返しては、 いつも現実を取り逃がし、 また、現在に取り残される。 さうして私が取り残された現在は、 いつも紊乱してゐて、渾沌としたものとしてしか 私には把握出来ぬ。 これは私が数学が出来ぬからとかそんな問題ではなく、 私は現実を現はす言語を失った失語症の一種に違ひない。
そんな私の胸奥には 空漠とした大穴に吹き抜ける風穴を通り抜ける風音のやうな音のみが 何時までも鳴り響いてゐる。
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No.2611 - 2025/09/24(Wed) 04:17:29
| ☆ Re: 紊乱 / 齋藤純二  | | | 現実の状況に自身が受け入れられる許容を超え、 それでもどうにか道を切り拓こうとしているうちに 現在にどんどん置き去りにされてゆく感じがとても伝わってきますね。 そして途方に暮れた心に穴が空き、風音が鳴っているという作品の締めが なんとも切なく語り部の気持ちが伝わってきました。 この現在で自身で調和を取り どうのように生きたらいいか、どうのような自分になれば…… 考えれば考えるほど大穴が空きそうですが、 それでも考え続けるってことなんですかね!?
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No.2613 - 2025/09/24(Wed) 08:42:13 |
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