列車の客はほとんどいなかった 雨上がりの地面に桜が風で散っていた 閉店を知らせる料理店の折り畳み看板の暦がめくられている 崖下から波打ち際の音が聞こえた 学生服の私の手には会社からの不採用通知書が握られていた 駅舎の軒から最後のしずくが落ちている 命つきる患者の血液のようだった しずくは水溜まりのカエルの頭を叩いている カエルは前足をあげて頭をしきりと搔いていた 私は開いた車窓に手を伸ばし握っていたものを離した それは螺旋を描くように風に乗って後方へ流れた 席に戻っても手の感触は消えなかった 出発の笛が聞こえた 列車が動き出すと母ではなく祖母の顔が浮かんだ 病床の彼女の澄んだ目が私の胸を満たしていた
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No.2034 - 2025/04/06(Sun) 01:18:32
| ☆ Re: 停車駅 / 荻座利守 | | | 応募した会社が不採用となった学生の無念さや不安感が、この詩全体からにじみ出ているかのようです。 「閉店を知らせる料理店の折り畳み看板の暦がめくられている」 「しずくは水溜まりのカエルの頭を叩いている」 といった表現が秀逸です。 そして末尾に、病床の祖母の目が浮かんだところが、「私」の複雑な心情を表していて良いですね。
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No.2036 - 2025/04/06(Sun) 09:20:37 |
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