介護施設で働いていた時 夜勤に入居者を寝かせていると 就寝時間なのに まだ一人 広間から廊下の方を 覗いている女性が居た
パーキンソン病を患っている その車椅子の彼女に近づいて 視線の高さまで腰を下ろし (そろそろ寝ましょうか) と声をかけると 彼女は私を見て 再び視線を戻し (あそこに子犬が、) と指を伸ばしながら言った
私は指の先を追ったが 子犬を見つける事はできなかった
医師なら パーキンソン病による幻覚と 正しい認知を教えるのだろうが 私は介護職員にすぎない
大切なのは傾聴と共感と 何度も教えられてきた
私は彼女の指した方を向くと (あの子犬は私が預かります) と言いながら向き直り (部屋に戻って寝ましょうか) と誘った
彼女は安心した様子で 一緒に個室に戻ってくれた
車椅子から彼女を抱き上げ ベッドに移して (おやすみなさい) と個室の電気を消しながら
私はモスキート音の事を思った
若い人は聞こえるモスキート音が 私には聞こえない
でも確かにモスキート音は 鳴っているはずなのだ
あの子犬だって いるのかもしれない
私という受信機が 電波を拾えないだけかもしれない
正しい認知なんて 人間に分かるものか
広間の電気を消して ダウンライトを灯し
廊下に子犬がいるか 私は再び確認していた
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No.72 - 2023/09/12(Tue) 20:28:47
| ☆ Re: 正しい認知 / 滝本政博 | | | とてもよく書けています。 認識論にまで至っていて内容も深いです。 何度も読み返してしまいました。 ここまでいいと少しハードルを上げて感想をいいますが、 一連目がやや説明的だと感じました。導入部はとても大切です。 悦明がいるのだとしても、詩的な書き方を模索してみるとさらによくなるとおもいます。
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No.75 - 2023/09/13(Wed) 03:06:26 |
| ☆ Re: 正しい認知 / 齋藤純二  | | | モスキート音と例えて「それぞれの認知」を説明していまして、 伝えたいことが上手く表現されていますね。 「私という受信機」この表現もいい感じです。 詩作もこの視点となる受信機が大事だな、と。
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No.76 - 2023/09/13(Wed) 06:44:12 |
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